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アナルスレに投下された、涼宮ハルヒとらき☆すたのコラボ作品をまとめる場所です。 4レスSS こなキョン こなキョン・GW編 泉こなキョンの憂鬱 こなたとキョンの試験勉強 こなキョン・単発ネタ こなキョンと朝倉と岡部と混沌 二期記念こなキョン カオス
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…なんだ、何が起こった?どうして俺は閉鎖空間にいるんだ?古泉お前のドッキリ企画か頼むから止めてくれ… ―古泉!?どこにいる古泉!?隠れても無駄だ出てこい! 『―彼ならここに招待しなかった。お前にしか用はないからな』 瞬間、空が震えた。今気付いたが、ハルヒが作り出した閉鎖空間よりも暗い。 そして、『彼』の声によるものだと気づくまで少々の時間を要した。 …どこにいるんだお前は!?古泉は?長門は?朝比奈さんは?どこだ!! 『彼らは元の世界で何も変わらず過ごしているよ。お前が居なくなって驚いているかも知れないがな』 …何で俺だけこの世界に呼び出した! 『お前は知っているのではないか?この世界がどのような世界なのか?』 この世界・・・この空間は、ハルヒが無意識下のストレスを発散させるために用意され、そして赤い玉をした超能力者に破壊されるかりそめの空間。ハルヒの不満が大きくなればなるほど拡大し、ついには元の世界と入れ替わってしまう可能性のある、言わば人間の細胞を蝕む癌細胞のようなもの。 俺はかつてこの空間に二度来たことがある。一度は癌細胞を消滅させるエスパーと、そしてもう一回、全て癌細胞に作り替えようとした他称神様と。 …癌細胞というのは聞こえが悪いか。 神様はノアの箱船に俺だけを乗せ、新天地を求めていたんだ。そして、俺の必死の説得により、神様は洪水を止め、元の世界に返してくれた。 『この世界は、自分が望む様に森羅万象を決定づけることができる。涼宮ハルヒの情報改変能力の一端を担っている。4年前、俺はこの能力を手に入れるため、涼宮ハルヒに接近した。だが、涼宮ハルヒは俺に感づいたのか、無意識のレベルで俺と接点が出来ないよう遠ざけていた。去年、この高校に入学するのに併せて俺はこの高校へ入学させた。入学当初は特に変化は見られなかったが、それから約二ヶ月後のある夜、突然情報噴出が止まってしまった。涼宮ハルヒの存在が消失していた。俺は涼宮ハルヒの能力を手に入れることが出来なくなったと思い、絶望した。幸運なことに数時間の時を経てその異常状態は元に戻っていた。俺は安心していた。そのときは。しかし、涼宮ハルヒから噴出される情報は月日が経つにつれて減少していた。またしても同じ目に遭ってしまう可能性があった。だがもう一度チャンスが訪れた。二ヶ月前より、涼宮ハルヒの情報噴出が復活の兆しを見せていた。この機会を逃せば、二度と手に入らないかも知れない。だから俺は涼宮ハルヒに接近した』 …こいつは4年も前からハルヒの存在を追いかけていたのか。ハルヒは無意識に気づいていたんだな。こいつがストーカーだと。 そして、情報云々の話が出てくるというとは、こいつは長門のパトロンの親類と言ったところだろうか? 『この世界の存在を教えてくれたのは、俺が拠所にしているこいつの有機生命体だ。その情報の痕跡が存在していた。有機生命体がもつ情報など、俺にとって些細な物であると考えていた。だが依代となった有機生命体がもっているそれは、涼宮ハルヒに影響を受けたと思われる情報の痕跡を宿していた。その情報より、涼宮ハルヒが進化の可能性を秘める情報を持つだけでなく、情報自身を有為無為に改変させることが分かった。これは俺にとっても有意義な情報であった。これであいつらに復習できると悟ったからだ』 …あいつら?誰だ?また新しいキャラクターが登場するのか?今度は異世界人か?いい加減勘弁してくれ。 『あいつらは俺の存在に嫉妬し、執拗なまでに追いかけ、俺の存在を、情報を構成する連結要素を崩壊させようとしていた。俺はこの星が存在する恒星集団にある、比較的大きな白色巨星に身を隠し、ひたすら耐えていた。どのくらいの時間が経ったのかは分からない。時間超平面を移動したところであいつらにはそれほど意味のない事だったしな。…俺は、無限とも思われる時間が過ぎたある瞬間、俺は情報爆発による情報噴出を確認した。俺はその目で情報噴流を確認したかったが、あいつらからの邪魔が入り、それが不可能になった。しかしその後、俺を招集するための情報が情報噴出源の極近くから確認された。その情報は、俺に対するあいつらからの追跡を完全に遮断していた。まるで俺のみを導くかのように。俺はその情報を元に、この惑星へと降り立ち、情報噴出源を捜索することにした。こいつの体に身を宿してな』 …なんとなく分かった。こいつはやはり長門と同じような存在。ただし敵対していた。 恐らく長門の親玉や、それに類推されるやつらに滅ぼされそうになったのだろう。 そして地球に逃げて、彼の体に憑依していた。長門の親玉達をやっつけるために、こいつの体に憑依したという訳か。 …ハルヒの能力を奪ってな。 『この世界ではあいつらも干渉することが出来ない。だから俺の存在を崩壊させる事が出来ない。だが、涼宮ハルヒの能力を完全に得ることは出来ないようだ。涼宮ハルヒからの抵抗が激しい。完全な物にするためには、『鍵』であるお前の力が必要だ』 …俺をどうするつもりだ!! 『俺はお前を崩壊させる気はない。お前という有機生命体を構成する情報を融合し、俺の一部にする。そうすることで、涼宮ハルヒの能力は完全に解放され、思うように力が行使できる。ただ、有機体は必要がないから排除するがな』 なるほど、つまり、俺は情報だけお前に取り込まれ、死んでしまうと言うことだろ? 『融合だ。お前の情報は残る』 だから、俺の意志やら決定、つまり、脳みその働きはなくなるんだろ? 『その通りだ。だが悲観することはない』 嫌だ。悲観だらけだ。俺の情報だけ取り出しても、俺という人間は存在は消えるし、人間の行動が出来なくなるのであれば、それは死と同じ事だ。 『…しかたあるまい。ならば無理にでもお前の情報を融合し、涼宮ハルヒの能力を解放させる』 そう言って、『彼』は具現化した。 ―あれは、神人!? 『彼』が具現化したと思われる神人は、しかし俺の知っている物とは微妙に異なっていた。 まず、色は鮮やかな海碧色ではなく、黒い、虚無の色をしていた。まるで、全てを否定するかのように。 『涼宮ハルヒの力を存分に発揮できないため、色々と制約がある。だが、お前を取り込むのには訳はない』 そういって、『神人』は右手を俺に向かって差し出してきた。とっさに俺は逃げ出していた。こいつとシェイクハンドをする気はさらさら無い。 ―あまり動きは早くないため、普通に走っていれば捕まらない。だが、俺には体力という限界値が設定されている。 このままだと、俺はいつか奴に取り込まれてしまう。 ―くそ!長門!古泉!どっちでもいいから早く助けに来てくれ!! 「………只今到着した」 あくまで淡々と、冷たく喋る声が、今回は心強く聞こえた。 ―無口少女と、清涼少年のカップルのご登場だ。 『貴様ら…どうしてここに!!』 「この空間での活動は、僕の専売特許でしてね。勝手に商売を始められて寡占するのはルール違反ですよ」 古泉は、俺と下らない世間話をするように『神人』に語りかけていた。 だが、いつもと様子が少し違う。元々この空間では古泉は赤い玉になって空を飛んだりしている。 しかし今回の古泉は、いつもの体に赤いオーラの様な物を薄く纏っているのみであり、さらに言うと若干ノイジーに霞んでいた。 長門は赤く発光はしていないが、ノイズがかかっているのは古泉と同様だ。 …長門。一体どうゆうことだ?これは? 「…古泉一樹の力と情報統合思念体の力を使って、この空間にアクセスした。涼宮ハルヒの不十分な力で確立しただけならば、古泉一樹の能力だけで容易に進入可能であった。しかし、彼は涼宮ハルヒの能力の他に、自分の能力、そして拠代となった人間の情報を行使してこの空間を具現化している。だから我々も、能力のスカラー合成、最適化を行ってこの空間にアクセスできるようにした。だが完全ではないため、ノイズがかかるなどの瑕疵が見られた。私も、古泉一樹の能力も、通常より著しく低下していると思われる」 長門の演説を久しぶりに聞いた気がする。こいつにも、蘊蓄を語りたい事と時間と場所があるのだろう。 「…この世界は、『彼』が作り出した閉鎖空間のため、涼宮さんが作り出したそれとは勝手が少々異なるようです。どちらにしろ、この世界を具現化している『彼』を倒さないと、この世界から戻ることは出来ないでしょう」 …できるのか? 「できなくはない。ただし保証はしかねる。この空間の不安定要素や彼の未確認不確定要素、私と古泉一樹の未知未到達な力場合成が原因にあげられる」 どのくらいの確率だ? 「悉皆不安定要素を排除し、優位な計算をした場合52%、不利な計算をした場合18%。ただし悉皆不安定要素の誤差が確定できないため、この数字に有効性を見出だすことができない」 要は俺たちの頑張り次第ってことか。 「そう。そして、この数字を無意味なものにしている一番の理由は、あなた」 俺が!? 「あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。彼の力を無効化するのも、最大限に引き出すのもあなた次第。この世界並びに元の世界の生殺与奪はあなたにあるといっても過言ではない。あなたが元の世界に帰ろうとする意思が強ければ強いほど、涼宮ハルヒにその想いは伝わる。その結果、不完全に力の融合を果たしている彼との亀裂が生じ、彼は涼宮ハルヒの力を保てなくなる」 …なるほど。長門が饒舌なことに驚きを隠せないが、いまはちゃんと話を聞く事に集中していた。 「…さて、お話はこの程度にしておきましょう。あまり長く話していると、『彼』は涼宮さんの能力と完全に融合を果たすかも知れません」 古泉の話に、ふと『彼』の姿を見ると、『彼』は『神人』の姿で暴れていた。 といっても、八つ当たり気味に何かにあたっているのではない。神人の力を抑え込もうとしているようだ。 その証拠だろうか、『彼』が生み出した神人の色が、やや青く、濃い藍色のような色になっていった。 「融合を完全なものにはさせません!」 古泉は赤いオーラをさらに発揮させ、『神人』に近付いていった。ノイジーな長門の高速詠唱が傍らで聞こえる。 「…今の古泉一樹の能力は、私の能力との連携に依って成り立っている。逆も然り。どちらかが倒れてしまえば、どちらの能力も機能しなくなる」 …この空間が、それ程イレギュラーと言うことか。 古泉は、いつか見たように『神人』の周りを回り、攻撃の様なものを加えていた。 だが『神人』のほうも黙ってはない。古泉に向かって攻撃をしていた。 ただ、いつぞやみた神人とは違い、あの『神人』は手を伸ばし、さらにその手の平に当たる部分から数十本の触手を伸ばし、古泉に襲いかかっていた。 古泉はそんな攻撃も楽々と回避、あるいは撃墜し、本体の方に攻撃をかけていた。 そして、右腕の半分以上を切り落としていた。切口からはどす黒い液体が流れ、地面に滴っていった。 …これは、特に俺の出番はないようだ。巻き添えを食らわないように離れた方が良いな。 古泉は立て続けに攻撃していた。そして、左手首も同様に切り落とし、頭の攻撃に向かっていた。 ―刹那、古泉は叩かれた。まるで人間が自分の周りを纏りつく虫をおいはらうように。 「古泉!」 「…大丈夫。生命活動に影響を与える様な怪我はしていない」 『神人』は右手で古泉を振り払っていた。先ほど古泉が切り落としたはずの右手で。 …長門!どう言うことだ!?右手が復活しているぞ!あいつは再生能力があるのか!? 「彼には涼宮ハルヒの能力を再生するような治癒能力は具わっていない。彼は特異的局地的に時間平面を移動させ、自分の情報構成要素を過去のものにし、あたかも右腕を復活させたかのようにした。…迂闊。忘れていた。彼は自身の極近辺の時間平面を局地的に任意変換することができる」 なんだそりゃ!いくら切り落としても、『彼』が元の姿に戻すことができるってわけじゃないか!そんなのを相手にどうするんだ! 「…彼のコアを破壊する必要がある」 その、コアってのはどこだ? 「あそこ」 長門が指差したのは、『神人』の胸のあたり、人間でいう心臓の辺りである。 よく見ると、『彼』の姿をした人間が埋め込まれている様に見える。あれを狙えば、『神人』を倒せるというわけか。 「…ただし問題がある。彼自身は基本的に二足歩行性有機生命体、所謂人間である。彼は巻き込まれただけ。構成要素はあなたや古泉一樹と同じ。そのため、コアを攻撃することにより、彼の有機体に損傷を与えることになる。有機生命体への肉体的損傷は、有機生命体の生命活動を脅かすこととなる」 あいつ自身は宇宙人が作ったインターフェイスではなく、普通の人間と言うことか。確かに、普通の人間を倒すのは忍びない。 …他に良い方法はないのか? 「時間移動をされる前に彼を巨人の中から抜き出し、情報結合を解除すればよい」 できるのか? 「――わからない…。でも、やる」 …長門が久しぶりに自分の意志を見せた気がする。…よし、長門、やっちまえ! 「……そう」 そう言って、長門は高速詠唱を開始した。古泉の周りに赤いオーラが復活する。赤い玉はまたしても『神人』に向かって攻撃していた。 「パターン0FC85-12D、回避、時間移動を確認。続いて12Eに移る」 長門の指令に対し、古泉は恐らく長門の指示とおりに動いていた。 …もう数えるのすら億劫なパターンの攻撃を繰り返していた。 裏から回り込み、コアを取り出す方法、手足をもぎ取り、動けなくする方法、触手を腕や足に絡ませる方法… 様々な攻撃を繰り返していたが、こちらの意図に気付いた時点で時間移動を開始し、自身を初期化していた。 そして、それは非常にまずい展開になっていた。『神人』は時間移動により体力も元に戻るらしく、攻撃の手は休まることを知らなかった。 だが、こちらの二人はあからさまに最初より動きが落ちている。人間の古泉はもちろん、長門ですら動きに陰りが見られ始めていた。 この空間では、長門すらプレッシャーをかけられているのか? ―ドンッ― 嫌な音が耳に響いた。 …古泉が、『神人』の触手に貫かれていた。 「古泉ぃぃ!!」 古泉は、力無く落下していった。俺は無我夢中に、あいつの元に走っていった。 「……うっ……これ……は……お恥ず………かし…………い…ところ………を…見ら……れ…まし…ゴフッ!………」 古泉!喋るな!じっとしていろ!!今手当てしてやる!!! 「危ない!逃げて!!」 長門の、今まで聞いたことのない悲鳴が聞こえた。後ろを向くと、触手が迫って来ていた! やばい!! ―俺は反射的に目を閉じていた。半ば諦めていた― ―ドンッ― 先程、古泉を貫いた時と同じ音がした。…死ぬ時って、痛みを感じないんだな… ん…痛くない?…というか、どこも怪我をしていない?じゃあ、今の音は… ―俺の網膜には、触手に貫かれた長門が映っていた― 「長門ぉー!!」 俺は長門の元へ駆けていった。触手は貫いていた長門を外し、『神人』の元に帰って行った。 「―長門!しっかりしろ!長門!!」 「……大丈夫。肉体…の…損傷は…対した事はない……。古泉一樹……程…大きな怪我を負っている……わけではない…でも…私達二人…が…相互に使用する……力の…大半……を…失った……コアを引き出す……のは…不可能…に近いレベル…にまで…減少した…」 …もういい!喋るな!おとなしくしろ! 「…問題ない…私の残った力で…古泉一樹と…私の…肉体再生…を…行う……ただ…力の大半…を失った…ため……時間が…掛かる……私は…あなたに…賭ける…先…にも…言ったが…あな…た……の…『元の世界に戻る』…という…願望が………涼宮…ハルヒ…の…元に…届けば…この……空間……は…崩壊…せざ……るを……得な…く…なる……彼女………の……力を……依り…代…に……して…いる……以上……彼…の……力……だけ……では……この……空間…は……存在……で…き…な…い……か…ら……」 …もう喋るな!!お前らは傷を治せ!『神人』に気付かれぬ様、死んだ振りをしてろ!あとは俺が何とかする!! 「……わかっ……た……」 そう言って、長門は目を閉じた。…全く息をしていないようにみえる。古泉もだ。 死んだのではなく、死んだ様に見せかけている仮死の状態なんだろう。あいつらが死ぬわけがない、そんなわけがないんだ。 ―さて、俺の番だ。俺は『神人』に向かって、歩き始めた― 「長門と古泉を倒してしまうとは、さすがだな。だが、俺が倒せるかな!?」 …俺は精一杯の虚勢をはり、悪の大魔王の様な台詞をはいた。……怖いなんてもんじゃない。 さっさと逃げ出したい。だが、古泉と長門をほっぽるわけにはいかない。 『お前の頼みの綱だった限定空間の破壊者、対有機生命体用端末はあんな状態だ。お前に何ができる?』 …できるさ。この空間を脱出した実績はあるもんでね。ここにはハルヒはいないが、あいつに俺の意志を伝える事ならできるだろう。 「おいハルヒ!聞いているか!俺だ!頼みがあるんだ!みんなをここから出してくれ!変な奴に付きまとわれているんだ!お前しか頼る奴がいないんだ!頼む!助けてくれ!」 俺は閉鎖空間の空に向かって叫んだ。 『…神頼みか。所詮は有機生命体。情報の不確定さが如実に現れているな』 何度とでも言え。 「ハルヒ、長門や古泉も怪我をしている。お願いだ。この世界を壊してくれ」 『無駄だ。お前が鍵であることは知っている。そして、そのような手を使う可能性もな。だからこの世界に外部からの繋りを遮断する遮蔽場を存在させた。お前の神頼みは神に聞こえはしない!』 「ハルヒ!頼む、俺たちがこの世界に取り残されてもいいのか!?聞いてくれ!ハルヒ!!」 『無駄だ。諦めろ』 『神人』から触手が伸びて来た。逃げるのは間に合わない! ―バシッ― ―瞬間、触手が千切れていた。 「…間に合いました。大丈夫ですか!?キョン君?」 ―そこに立っていたのは部室専用のお茶汲みメイド、俺の癒し的存在、朝比奈さんだった― 「朝…比奈…さん?なぜここに…!?」 「キョン君に言われて来たんです」 先ほどまでのスーツ姿ではなく、いつもの制服姿で朝比奈さんはそう答えた。 「…俺に?いつ?」 「…今のあなたから四日後のキョン君です」 『神人』は、触手を切られたことにだろうか、激しく悶絶していた。 「…なるほど、またあの時の様に、未来からの介在があったというわけですか」 「いえ、違います。キョン君の命令です」 「え…?でも、未来からの命令がないと動けないんじゃ?」 「そのとおりなんです。キョンくんに言われて、未来からの通信を見たら、『何があってもキョン君の命令に従え』という最優先強制コードが発令されていたんです。驚いてキョン君に相談したら、『今から言う時間―四日前の午後七時、鶴屋邸で行われた争奪戦の特設ステージに時間移動してください』と言われたんです。でも、TPDDの許可がないから無理って言ったんですけど、『大丈夫だから』って言われて。そしたら、本当に移動できたんです。本来は許可を得ないと、使用不可能なのに…。キョン君、どうしてですか?」 「俺にも分かりません。そして、どうしてこの空間に入ってきたんですか?そして、その力は何ですか?」 「それもわからないんです。キョン君が、『その時間の俺を助けてくれ。願えば力が出るはずです』って言われて。…時間移動して、この空間侵入した瞬間、キョン君が襲われてたの。助けなきゃ、って思ったら、いきなり触手が切れて……ごめんなさい」 「いえ、あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます」 「こちらこそ…。キョン君を助けることができて嬉しいです」 とんでもない能力を身に着け、小未来から来た朝比奈さんは、こんな状況にも関わらず、笑顔で返してくれた。 『貴様!どうやってこの空間に侵入した!』 『彼』が叫んでいた。ご自慢の遮蔽空間を、あっさり三人に突破され、気が立っている様だ。 『貴様もあいつらの様に貫いてやる!』 『神人』は、朝比奈さん(みちる改)に触手を向けていた。その数、およそ百に近い。 だが、朝比奈さん(みちる改)が手を向けた瞬間、激しい音を立てて全てを撃墜していた。まるで長門の高速詠唱を利用しているかの如く。 「朝比奈さん、いつのまにこんな能力が…」 「私にも分かりませ~ん!」 泣きそうな顔で触手を迎撃していた。何故自分にこんなことができるのか、本当に困惑している様だ。 「キョン君、元の世界に戻る方法を実行してください!」 「朝比奈さん、あなたも知ってるんですか?元の世界に戻る方法を?」 「私には、あの巨人を倒すほどの力は無いみたいです!」 朝比奈さん(みちる改)は触手を撃墜しながら喋っていた。 「だから、キョン君、元の世界に戻れるよう涼宮さんにお願いしてください!」 「朝比奈さんもその方法が一番だと思うんですか?でも、先ほどやりましたが反応が無いんです」 「それは、キョン君の本心を見せてないからです!本気で願ってください!本来の世界でやり忘れていた事があるんじゃないんですか!!」 ―やり忘れていた事― …朝比奈さん(みちる改)の言葉で目が覚めた。俺はうわべばかりの願いをハルヒにしてたのか。だからハルヒは願いを叶えてくれなかった。 …わかった。本当に帰りたい、その理由をハルヒに伝える! 「ハルヒ!!」 俺は声を張り上げ、空に向かってハルヒに問い掛けた。 「俺はお前に言わなければいけない事があったんだ。だが、俺はそのことに気付くまでにかなり時間が掛かってしまったんだ」 『神人』の攻撃は朝比奈さんが抑えている。だが、休まる気配が無い。 「この争奪戦中、特に最終試練で、俺は言い様のない焦燥感と苛立ちが襲ってきたんだ。谷口に『俺が涼宮と付き合ってもいいんだな』と言われ、国木田に『涼宮さんには、僕よりお似合いの人がいる』と言われ、焦ったんだ。その時は何で焦ったか分からなかったんだ。どうしようも無いほど馬鹿だな、俺は。そして、古泉に悟られ、ようやくその気持ちに気付いたんだ」 『神人』と朝比奈さんは攻防を続けているが、俺はその音が聞こえてなかった。ハルヒに想いを伝えるのに必死だった。 「だから、最後の一人には、絶対負けたくなかったんだ。…しかし、負けてしまった。この時ほど、負けて悔しいと思った事は無かったよ。お前を他人に取られるのがこんなに気分が悪かったとは、自分が一番びっくりだ」 気のせいかもしれないが、『神人』の攻撃が少し収まった気がする。 「ハルヒ、俺は…お前が…」 そこで、俺は一端言葉を切ってしまった。 「キョン君、躊わないで!想いを伝えて!私何も聞こえてませんから!」 朝比奈さん(みちる改)の、聞こえているのに聞こえて無いと言う、フォローになってないフォローが飛んできた。 「―お願い…あなたの…意思が…総てを…握っている―」 「…僕に…教えてくれた事は…嘘だったんですか…?…お願いします…あなたの…想いを…涼宮さんに…」 ―みんなのためにも、俺のためにも― 『神人』からの攻撃が、一層激しくなる。 ―ハルヒが、俺たちを元の世界に戻してくれる様に― 「ううっ!」 朝比奈さん(みちる改)の顔が厳しくなる。 ―ハルヒに、伝える。俺の想いを― ―そして、俺は言った。 「―ハルヒ、この続きは、元の世界に戻ってからだ」 『………!!!』 三人が、声にならない声を上げていた。 「…キョン君…」 「………」 「…あな…たは…」 「…おいおい、勘違いするな。俺は言わないとは言ってない。この世界の中、ハルヒの夢の中で言っても仕方のないことなんだ。俺がハルヒに、面と向かって言わなければいけないんだ。現実世界の、本物のハルヒにな」 『………』 全員が、沈黙した。『神人』さえも。 「だから、俺たちを帰してくれ、ハルヒ。無事帰ってきたらお前に伝えたいんだ。俺の想いを」 ―刹那とも永遠とも思える時間が流れた。そして、閉鎖空間に亀裂が生じた― 『なにっ!この世界が崩壊し始めている!…そうはさせん!』 『神人』は、その崩壊を持ち堪えようと、自信の力を使用し、崩壊を修正し始めた。 「あなたの思い通りにはさせません!」 その時、復活した古泉が空を飛び、『神人』周囲を周り、攻撃していた。右腕、右脚、左肩…ことごとく切断していた。 『…!………!!』 「…時間移動はさせない。情報結合解除を申請する」 『!!うおああああ!!』 『神人』は煌めく砂のごとく、崩れ落ちていた。 『グァァァァ……ルァァァァ………ュァァ………………』 『神人』は、完全に砂となって消滅した。『彼』を残して。 ―瞬間、空が割れ、光が差し込んだ― ――俺が気を失っていたのはそんなに長くはなかったかもしれない。 横を見ると、長門、古泉、朝比奈さん(みちる改)も、同時に目を覚ましていた。 …やれやれ、助かったようだな。それに二人とも傷は大丈夫のようだな。 「ありがとうございます。あなたのおかげで、又もや世界は救われた様です」 …そんな大層なことはしてないつもりだったのだがな。そういえば長門、あいつの正体は、お前の親類か? 「…違う。あれは発展的異時間偏向改変種型情報集積体。その最後の生き残り」 …またわけの分からない名前が出てきやがった。 奴の特徴と、お前の親玉との関係を分かり易く教えてくれ。 「情報統合思念体と彼らは起源からして異なる。彼らは純粋な情報ではなく、時間軸の波動的振舞いから発生した情報の痕跡。彼らは時間平面を量子的に捉えるだけでなく、連続性のある波動的にも捕らえることができる。また、時間を平面だけでなく、積分してより高次の時間軸を容易に操作できる。それは、情報統合思念体でさえ困難な能力。情報統合思念体はその能力を危険なものとして調査していた。彼らが時間を操ることによって、宇宙の法則・情報を無に帰す可能性があったから。実際、彼らの中にそれを実行しようとするものが現れた。そのため、情報統合思念体は彼らの存在を危険なものと判断し、存在を消去しようと試みた。幾多の攻防の上、情報統合思念体は彼らを残り一体まで追い込んだ。この銀河の白色巨星―この惑星でデネブと呼ばれる恒星の辺りまで追い込んだのは分かっていたが、ずっと消息不明だった」 …追い込んだと思ったら、地球にまで逃げてきてたのか。 「…そう。彼の情報の痕跡を解析したところ、彼は四年前の7月7日、この惑星に降り立った。あなたが示した、あの模様によって」 げっ!俺が四年前のハルヒに命じられて書いたあの幾何学模様によって、本当に宇宙人を呼び込みやがったのか!あいつは! しかも織り姫と彦星を通り越して、百倍くらい遠いデネブに願いをかけるとは! 「あの日、あのメッセージに惹かれるまま、彼は周辺の民家に降り立ち、涼宮ハルヒに影響を受けたと思われる一人の少年に乗り移ってた。そして意識下位下までその存在を身を隠し、我々に気付かれない様にすると同時に、涼宮ハルヒの動向を観察していた。高校に入学してから涼宮ハルヒの情報噴出の増減が激しかったため、ついにコンタクトすることを選んだ。折しも人間の彼もまた同じ思いとなっていた」 …なるほど、それが彼なのか。その微妙な存在感をキャッチして、ハルヒはストーカーだと思ったわけか。 「人間の彼は、僕たち超能力者の候補の一人だったのでしょう。だから、涼宮さんに惹かれるものがあったのかも知れませんね。丁度、あなたの中学の時のご学友が、長門さんに惹かれたように」 …なるほどな。こいつもハルヒや宇宙人にひっかき回された、気の毒な奴だったんだ。 ところで、朝比奈さんのとんでもないパワーはどこから? 「朝比奈みくるから、彼らの情報の一部が集積されていることがわかった。恐らく、先程解除した情報結合の一部情報を朝比奈みくるに移設した模様」 「ひぇぇっ…!私そんなことされてたんですか…一体誰が…」 朝比奈さん(みちる改)が可愛い悲鳴を上げる。 「この情報は比較的共有性・類似性のある、時間平面理論を理解しているものに適用することができる。だが、器が有機生命体である以上、移設しても情報はやがて揮発してしまう。持って一週間。でもこの情報を今の時間の朝比奈みくるに移設する。恐らく、それが既定事項。…許可を」 長門は朝比奈さん(みちる改)を指差し、指示を仰いでいた。 「…わっ、わわわかわかわかりましたぁ!き、既定事項なら仕方ありましぇぇん!おね、お願いしますぅ」 半ば脅されているように了承する朝比奈さん(みちる改)。でも、なんで未来から時間移動の指示がなかったんだ? 「彼らは朝比奈みくる達が使う時間平面理論より、高次な理論を使用する。時間移動にジャミングをかけるのは容易い。人間が彼らと同じ理論を使用するためには、有機生命体であることを止めなければいけない」 なるほど、だから普通の未来人はTPDDを利用した時間移動ができず、俺の指示に従え、という命令を出したわけだ。恐らく、朝比奈さん(大)がな。 「…あなたの使命は終わったはず。…朝比奈みくるに帰還命令を」 そう言って、長門は俺に朝比奈さん(みちる改)の帰宅申請をした。…何で俺が? 「朝比奈みくるは、今、あなたの命令に絶対服従をしている。だからそれを解き、未来の時間に帰してやるべき」 そうだな。だが、絶対服従か…いい響きだ。別れる前にあんなことやこんなこ… …スマン、長門。冗談だ。だからそんな冷たい目で見ないでくれ。 「…そう」 コホン、では、朝比奈さん、あなたは元の世界に戻ってください。戻り次第命令を解除します。 「…わかりました。でも、何時がいいですか?」 前回は一分しか無くて大変だったから、今回は五分くらい見ましょう。あなたがあちらの世界から消えた、五分後でお願いします。 「…サー、イエッ、サー!」 朝比奈さん(みちる改)は、キュートな号令をあげた。もしかして、未来での上官の指示に対する返答は、あんな感じなのかもな。 …………。 …朝比奈さん(みちる改)は、人気のない、ステージの奥まったところで時間移動を行い、帰っていったようだ。 さて、ではこちらの朝比奈さん(みくる)に情報を埋め込むとしましょう。 俺がハルヒを寝かせた場所で、ハルヒと朝比奈さんは静かに寝息を立てていた。 ハルヒはともかく、朝比奈さんは起きていたはずだが…いや、何となく分かった。朝比奈さん(大)が気絶させたのだろう。 …既定事項とは言え、自分に変な能力が付随するってのに、大変だな、未来人は。 長門が高速詠唱を唱え、何やら手をあげ、円を描き、それを朝比奈さんに注入するような仕種を見せ、最後に、やっぱりというか、噛み付いていた。 ―そして一言、「終わった」 …それが合図だったかのように眠り姫二人が起き出した。 「…あれ!?みんな?え?争奪戦は??」 「…私、なんで寝てるんですか?涼宮さんを看病してたのはおぼえているんですが…」 俺は二人に説明をした。ハルヒの宣言に逆ギレした彼に、ハルヒと朝比奈さんが気絶させられ、俺と古泉が止めに入り、彼を説得した。 改心した彼は泣いて謝り、もう手出しをしないことを約束し、帰って行った。 ―どうだ?完璧だろう? しかしハルヒはジト目で、 「じゃあ鶴屋さんはどこ行ったのよ?」 しまったぁぁ!考えてなかった!! 俺の内心の焦りに、古泉が助け船を出してくれた。 「鶴屋さんは使用人、侍従その他の人と一緒に、避難してもらいました。長門さんは二人の看病をしてもらいました」 ……おい古泉、そんな出任せ言って大丈夫なのか? (大丈夫です。鶴屋さんは実際にそのとおりしてもらいましたから。あなたがこの世界から消えているうちにね) …なるほど、用意のいい奴だ。 「…古泉君が言うなら本当よね。わかったわ。キョン、信用してあげるから感謝しなさい!」 …なんで古泉は信頼して、俺は信用されないんだ。忌々しい。 ―その後、後片付けをして鶴屋さんにお礼を言って、帰ることになった。 俺はハルヒと帰る方向が同じで、途中迄暗い道ということもあり、一緒に帰ることになった。 『………………』 そして二人とも沈黙していた。…かなり気まずい空気である。 俺は閉鎖空間で言ったあの台詞と、続きの台詞を思いだしていた。 正直、恥ずかしい。その思いが、ハルヒへの会話を遮断していた。 「―ねぇ、キョン」 ハルヒが突然、声を掛けてきた、あぁ、な、なんだ? 「―何でもない」 ハルヒはそう答え、また黙ってしまった。―また沈黙。 やれやれ、どうするかな。いっそここで、あの続きを喋っちまうか?そう考え、俺は空を見上げた― 「おいハルヒ!」 「―っ!な、何!」 ハルヒは驚いた表情で俺を見ていた。 「上を見ろ」 「…え?…あ……すごい…綺麗…」 空の上には天の川が燦々と輝いていた。照明が少ない道を歩いているのが幸いした。 「あれがベガにアルタイル、そしてあっちがデネブだ」 「…あんた、以外と詳しいのね」 「まあな、この時期、親戚の子供たちに教えてやってるからな」 「ふーん…。…ねえキョン、あたしの願い、叶わなかったわね」 「願い?」 「あの七夕の願いよ」 「ああ…そうなるのか」 「でも、やっぱりいいわ。あたしはまだ彼氏なんていらないわ。今回みたいに、変な奴に付け回されることになると困るしね」 「…大丈夫だ。そうゆう時は俺が助けてやる」 「…え…うん…」 「…なあハルヒ。第二回争奪戦は何時開催だ?」 俺は唐突に話を変えた。 「…そうねえ…。やっぱり秋かしらね?スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋…何をするにしてもいい時期よ!いろんな試練を考えられるわ!あんたは今度は試験官兼警備員に昇格させてあげるわ!挙動不審なのがいたらあんたの権限で失格にしていいわ!」 「それは面白そうだが、丁重にお断りさせて頂く」 「何よ!あんたに否決権なん…」 「俺は、参加者として参戦する」 「え…?」 「参加者として参戦して、必ず優勝する。そして、お前に言うべきことあるんだ」 「…何…を……!?」 「…それはな………」 「…それは………?」 「それはな、優勝してからのお楽しみだ!」 「…!何よ!またからかったわね!」 「ははははっ、スマンスマン」 「……………さっき夢の中と同じじゃない………期待して損しちゃった………」 「何か言ったか?」 「え?何でもないわ。…わかったわ。参加者として参戦しなさい。…それからキョン、あんたにこれあげるわ」 ハルヒはそう言って、自分の袋から花束を取り出した。 「…これは…向日葵?」 「そう、向日葵よ。今日あんた頑張ってくれたから、そのお礼よ」 「どうしたんだ?この花?」 「あいつにもらった花よ。誕生花ばかり集めたんだって。でも誕生花って、色んな定義あるから一種類だけとは言い難いのよね。…正直、気持ち悪いから捨てたかったんだけど、花に罪はないしね。それに、あたしが花を受けとらなかったら、あんな野郎に育てられるのよ?それか捨てられるか。花が可哀相だわ。だから預かることにしたの」 「なるほどね。でも、何で向日葵だけなんだ?他にも色々あるじゃないか?」 「そっ…それは…その…あんたにでも育てられそうなのはこれくらいだからよ!それに今日の記念として家に飾っておけば、第二回争奪戦のやる気も湧いてくるでしょ?」 「…そうだな。…8月7日で思い出したよ。お前、もう一度七夕のお願いしてみろ。仙台の七夕祭りを始め、他の地方では今日やるんだ」 「そうなの?何で?」 「節句を月遅れでやる風習もあるんだよ。それに実は今日、旧暦の7月7日なんだ。七夕は本来旧暦で祝うものだ。もしかしたら今日の方が願いがかなうかもしれんぞ」 「……そうなんだ……」 ハルヒは暫く沈黙した後、 「…そうね。お願いしてみる!」 ハルヒは手を合わせ、星に願いごとをしていた。俺も同様に願いごとをした。 「…あんたは何を願ってたのよ?」 「…同じ内容さ」 「…また進学とか就職の願いなの?やっぱりあんたは俗物ね。もっと大きな願いを成就させてこそ、願いは意味があるものなのよ!」 ハルヒ得意の理論に、黙って頷く俺。 ―悪かったな。お前と同じ内容の願いでな― 心の中で、そう叫びつつ。 「…あんた、わかってるわね?」 願いごとを終えたハルヒが、俺に話しかけて来た。 「あんた今回のペナルティもあるし、自分で優勝予告を宣言したのよ。 団員としてあたしを盛り上げるためにも、あんた自信のためにも絶対優勝しなさい!そうでないと…」 ハルヒは、とびっきりの、そして、俺の一番お気に入りの表情である、あの100Wの笑みで俺に言った。 ―許さないわよ!― ※エピローグに続く
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ねぇ、キョン。 ねぇ、キョン、返事をして? ねぇ、キョン・・・。 聞いて、あたしの話を聞いて。 キョン! ねぇ、キョン。 あなたはあたしを裏切らないよね? ハルヒの声がした。 ハルヒが俺の名前を呼んでいる。 どうしたんだハルヒ? 目を開けて起き上がると、そこは色も音も無いただ真っ黒な空間に俺は居た。 見渡すほどの広さも感じられない。ただ黒一色の空間。 足元もフワフワとして、まるで星一つ無い宇宙空間に放り出されたようだ。 俺は確かベッドで眠っていたはずだ。それがどうしてこんな場所に居るんだ? まさか例の閉鎖空間とやらに呼ばれてしまったのだろうか。 なら、ハルヒもこの場所に居るはずだ。どこにいるんだ、ハルヒ。 「ハルヒ!」 ハルヒの名前を呼ぶ。だが返事は無い。 ハルヒの声がして、この妙な空間・・・閉鎖空間だと思ったが違うのか? なら、例の急進派か? 「ハルヒ!おい、返事をしてくれ!ハルヒ!」 もう一度ハルヒを呼ぶ。・・・やはり、返事は無い。 キョン! キョン! キョン! どうして返事をしてくれないの? ・・・・。 ・・・・。 ・・・。 キ ョ ン ! ! 『・・・ョ・・・ン・・・・・キョ・・・・!・・・・ョ・・・』 微かに、だが確かにハルヒの声が聞こえた。やっぱりハルヒはここにいるのか? 「ハルヒーーーっ!!ハルヒ!!どこだ、おーい!!」 大声を出してハルヒの名前を呼ぶ。だが一向に返事は無い。 ・・・どうなっているんだ?ハルヒじゃないなら長門、古泉の誰でも良い。返事をしてくれ。 『 キ ョ ン ! ! 』 突然、この空間全体が揺れるほど大きい声で俺の名前が叫ばれた。 実際、 ず ず ず ず ず ず どっ どっ どっ と辺りが激しくゆれ出した。 ゆれ出した空間の一部が、ぐにゃりと歪む。 それはだんだんと色が付き、ますます歪みを増してゆく。 ぐにゃ その歪みは、だんだんと、ある人間の顔を模してゆく。 「・・・ハルヒ・・・・・・・!?」 空間に浮かんだ歪みは、ハルヒの顔になった。 その顔は笑って、俺を見下ろしている。 呆然とそれを見上げていると、また空間の一部から腕が二本飛び出して俺の体を無理矢理掴んだ。 つ か ま え た ぁ ! 大 好 き よ 、 キ ョ ン ! おわり
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俺が朝目覚めると、目の前にハルヒの寝顔があった。 一瞬戸惑ったが、昨日のことを思い出す。 ちなみに俺達は付き合っていたのだが、こういうことをしたのは今回が初めてだ。 俺もまぁしたくないわけではなかったのだが、ハルヒに拒否されるかと思うと怖くて出来なかったんだ。しかし、昨日ハルヒが俺のことを挑発してきて、ついに俺の理性がぶちぎれてしまったわけだ。 そう、俺とハルヒはその何と言うかまぁそういうことをしてしまったわけだ。 ハルヒは中学時代に付き合いまくってたにも関わらず初めてだった様だ。まぁ、俺もそうだったがな。 そんなことを思いながらハルヒの寝顔を見る。 やっぱりきれいだ。俺の自慢の彼女だもんな。 時計を確認すると、そろそろおきたほうが良い時間のようだ。今日は学校もあるしな。さぼろうかと思ったが、ハルヒと二人でさぼったら古泉たちに何を言われるか分からん。 さて、ハルヒを起こすか。 俺が起こすと、ハルヒは比較的寝起きが良いようで、スッと起きた。 「おはよう」 あぁ、おはよう。体、大丈夫か? 「あ、うん///大丈夫そう。ちょっとスースーするけど…」 学校行けそうか? 「大丈夫」 そうか、じゃ早く準備して行くぞ。 「キョン、おはようのキスして。」 あぁあぁ、わかりましたよ。 チュッと軽いキスを落とす。 「ねぇ、もっとやってよぉ」 仕方ねぇな・・・学校前だぞ? 俺たちはさっきより濃厚なキスをした。 「ぷはぁ・・・キョン、朝から激しすぎよ。」 すまん、お前が可愛すぎだからだ。 「もう///」 すると、俺はあるいたずらを思いついた。 おいハルヒ、お前今日俺のいう事聞いてくれるか? ちなみにこういうとき、ハルヒは大抵俺のいう事を聞いてくれる。付き合う以前はともかく、こいつから告白してきたし、ハルヒは俺と二人っきりの時は比較的素直だ。 「何?キョン」 これ挿れて学校行ってくれないか? 「え、これって…」 俺達は昨日、初夜だとは思えないほど激しいプレイをし、道具なども使ったわけだ。 俺の手に握られていたのは、昨日ハルヒの前戯に使ったバイブだった。 「でも…」 いいだろ? 「ばれちゃわないかな?」 大丈夫だよ、お前もスリルは大好きだろ? ほら入れるぞ。 「あ・・・ん」 ハルヒの中にバイブを入れる。 「ん・・・あぁん・・・」 おいハルヒ、もう感じてるのか?一日持たないぞ? 俺の中で何かのサディズムが目覚めてしまったようだ。 まぁ、付き合う以前は散々尻に敷かれていたし大丈夫だろう。 何やかんやあったが、俺達は無事に学校に時間通りについた。何とか一緒に来たこともばれなかったようだ。 そして ハルヒの膣には今バイブが挿入されている。 授業は始まったが、ハルヒは真っ赤な顔をしたままずっと下を向いたままだ。 かくいう俺はチラチラと後ろを確認している。 すると、ハルヒが俺をつついて小さな声で言ってきた。 「キ、キョンー…あ・・・はぁ・・・もう無理っぽいよぉ・・・」 確かに、もうハルヒの秘部から出たと思わしき匂いが充満し始めている。このままじゃばれてしまうかもしれない。 じゃぁ、この授業が終わるまで我慢できるか? 「が、頑張ってみるわ・・・」 休み時間になった瞬間、ハルヒが話しかけてきた。 「キョンー・・・早く抜いてぇ・・・もう無理だよぉ」 そうかそうか、よく我慢したな。 ほら、立て。保健室行くぞ。 ハルヒは立とうとしたが、その瞬間にしゃがみこんでしまった。 「キョン、立てないよぉ、足に力が入らない・・・」 仕方がない、俺はハルヒをお姫様抱っこして保健室に行った。 すると、ちょうど良いことに保健の先生は居なかった。 ほら、ハルヒ、寝転がれ。抜いてやるから。 「ありがと・・・キョン。」 ハルヒは顔を真っ赤にしていて、相当感じているようだ。 俺はハルヒをベッドに寝かせ、先生が来てもばれないようにベッドの周りのカーテンを閉める。 ハルヒ、足を開けろ。 グチョ、ヌチャ いやらしい音を立てながら、ハルヒが股を開く。 俺はパンツの上から、軽くハルヒの秘部を撫でる。 「あ・・・」 ビチョビチョじゃないか、むしろ洪水だ。感じてるのか?ハルヒ。 「ん・・・もう、キョンのせいなんだから。」 俺はハルヒのパンツをずらし、バイブを抜いた。 抜いたあとにハルヒのハルヒの穴を見ていると、何かを求めているようにヒクヒクしている。 「キョン、そんな見ないで・・・」 そうか。 俺はそういうとハルヒのパンツを元に戻した。 正直俺も今すぐにでも押し倒したかったし、俺の息子もかなり大きくなって居た。それにハルヒも感じていて、もっとして欲しいようだ。だが、あえて裏切ってみる。 「え・・・?キョン、もっとしてくれないの?」 何言ってるんだ、ここは学校だぞ?家まで我慢できたらやってやるよ。 「えー・・・」 やれやれ、これからあと学校が終わるまで、俺もハルヒも耐えられるかな・・・ っていうか初めてなのに二人ともやりすぎだろw
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翌朝、俺はいつものように妹の強烈なボディーアタックを食らって目を覚ますという一部の人間にはうらやましがられそうな目覚めを演じた。しかしもちろん俺が自分をうらやむわけもなく、感慨もへったくれもないような目覚めでありよってまったく爽快な気分はしない。 爽快な気分がしないと言えば我が家の飼い猫シャミセンも完全にだらけモードで床に寝そべっている。夏の暑さにすっかり気怠くなったのだろう。 どうしてやろうかとシャミセンを見て思案する俺だったが、俺が起こしてやる前に妹によって抱きかかえられ、反抗の意思表示も軽く無視されて妹の『ごはんのうた(新バージョン)』とともに階下へと連行されていった。 朝起きたら世界が変わっていた――とかいう冗談みたいな事態になるのは絶対に避けたいものの、ならばそれをどう回避するかという問題であり、もしかすると俺は避けるよりも変わった世界を元に戻すほうが素質があるのではないかという結論に達するわけである。朝から何を言ってるんだ、俺は。 しかし、実を言うとそれは事実かもしれん。なにしろ十二月あたりに俺はそんなことを経験しているからな。 しかしまあ、そうそう世界も変わるもんじゃないだろうというのが俺の楽観的な考えである。この世界の神様だってそこまでこの世界に住んでいる人間(とりわけ俺)に理不尽な設定を押しつけるわけはないだろう、と。もっとも、あの時世界を変えたのは神様じゃなくて地球外生命体だったのだが。 朝食を食っている間、俺はそんなアホなことを考えていた。 一日の始まりというのは当然ながら自分の家にいるわけで、ということは学校の俺の後ろに誰が座っているのかは朝の時点では解らないのである。 無論、そこにいるのがカナダに転校したことになってるヤツだったらそれはもう悪夢以外の何者でもなく、今すぐ110通報してそいつを捕まえておくとか大量の保険に加入しておくとかしないとならないだろう。 ありがたいことに、あの日以来今のところそういうことにはなっていないが。 何と言っても俺が自分の教室に着いたとき、俺の後ろの席に我が団の団長が座っていてくれればそれほど安心できることもない。 そして、今日もそうだった。 谷口や国木田連中と一緒にひーこら言って坂を登り、二年五組の教室で不機嫌なオーラを放出して机に伏せているハルヒの姿を確認できたとき、俺はああ今日も無事らしいなということを悟った。 悟った、が。 俺はすぐに、今日が無事と言えるほど無事な状況ではないことを認識し直すはめになるのだった。 * 今日は特に暑かった。 昨日のように湿度を上げて嫌がらせ攻撃を仕掛けてくることはなかったが、今日は純粋に太陽光の威力が強い。誰かが太陽の表面にせっせとガソリンを注いでいるんじゃなかろうか。 「まーったく暑いわねっ!」 ハルヒの機嫌もさらに下方修正が施されているようだった。そのセリフも今日だけで三度目くらいである。朝のホームルーム前からこの状態では、午後には機関銃並の速度でグチをたれていることだろう。 「年々気温が上昇してるんだから、もっと早くから夏休みにすべきなのよ。いつまでも昔のまんまじゃ日本の社会は進歩していかないわ。これじゃあ予定が狂っちゃうわよ」 高校生の夏休みの長さに日本の社会を持ち出すのもどうかと思うが。 「その予定ってのは何だよ。俺はまだ聞かされてないぞ」 「夏休み前から文化祭映画の撮影をやるつもりだったの。去年みたいに秋に始めてると毎日すっごく忙しくなっちゃうからと思ってあたしなりに配慮したつもりだけど、でもこの暑さじゃ無理よ。外に出たら四秒で丸焼きになるわ」 むしろ好都合である。 「じゃあいっそのことやめちまおうぜ。この分だと文化祭までずっと酷暑だ。今年の文化祭は映画をやめてバンドだけで充分じゃねえか」 「ダメよ、そんなの。せっかくみくるちゃんで客寄せできるチャンスだもの。逃す手はないわ」 たとえ一年前に調子づいた拍子で言ったことでも、言ったことは必ずやり通すのが涼宮ハルヒ流である。早い話、メイワクだ。 そう、つまり今年も我がSOS団では去年に引き続き映画を撮ることになっているのである。 去年の映画のタイトルというのが『朝比奈ミクルの冒険 Episode 00』であって今年はその続編である。題名は確か、『長門ユキの逆襲Episode 00』だったっけ。作品名には長門の名前がクレジットされているものの内容は去年と同様に朝比奈さんのPVに相違なく、ハルヒは本気なのかもしれないがそこにストーリー性は皆無である。カメラマンの俺はまだいいが、高校三年生になってまでセクハラウェイトレスの扮装をさせられて幼稚園児のケンカよりもショボいと思われる戦闘シーンを演じなければならん朝比奈さんを思うと涙が出てくるね。 俺は二つ目の案を提示した。 「ならバンドのほうをやめようぜ。俺はギターなんか弾けないしボーカルなんてもっと無理だ。映画かバンドか、どっちかにしてくれ」 「ダメよ。去年は映画だけだったんだから今年は二つやるわ。来年はきっと三つやるわよ」 「来年のことはいい。しかし俺は本当に楽器なんて何もできないんだ。だからバンドはやめてくれ。あるいは、俺を除いた団員だけでやってろ」 この会話から解るとおり、呆れたことにSOS団は今度の文化祭で一般参加のバンドにまで出演する予定である。SOS団、というからにはその中には高確率で俺も入れられているのだろう。 映画のスクリーンならカメラマンである俺は映ってないからともかく、生のライブであるとうなら俺も否応なしに素顔を公表しなければならず、そうなったら最後校内だけでなく俺の近所にも俺がSOS団なる珍妙な団体に所属しているということが知れてしまう。それだけは阻止せねばならん。 しかしハルヒに意見を変えるつもりは蚊の針の先ほどもないようだった。この迷惑女は暑そうにセーラー服の胸元を手でパタつかせながら、 「何言ってるの。あんたにだってできるやつはゴマンとあるわよ。みくるちゃんと一緒にタンバリン叩いてたっていいけど、それよりもあんたには舞台の隅でカスタネットでも叩いてるほうがお似合いね」 嫌だね。なおさら嫌だ。 ――それは何の前触れもなく訪れた。 俺がどう反論の意を唱えようかと考えていると、ハルヒは次のように宣言したのだった。 「とにかく、あたしは一度言ったことをひっくり返すつもりはないわ。今年はバンドをやるし、映画も『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』を上映させるからね!」 ハルヒは確かにそう言った。 お気づきだろうか。しごく当然のように言ってのけたため聞き流してしまいそうだったが、俺の耳及び危険レーダーはそれをしっかり察知していた。 一瞬聞き間違いかと思ったが、俺は自分の耳をそれなりに信用しているつもりである。 あれ? ハルヒは何と言った? 「こらキョン、せっかくあたしがカッコいいこと言ってるのに、あんたの今の顔はいつにも増してマヌケ面よ。写真に撮って収めておきたいくらいだわ」 いや、そんなことはいい。俺のマヌケ面写真を撮ってもせいぜい後世SOS団員の笑いのタネにさせられるだけだろう。それよりも、 「すまんハルヒ、もう一度映画のタイトルを言ってくれないか? ちょっと違ってたような気がしてな」 「『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』よ。あんたまさか忘れたの?」 はあ? 『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』だと? そんなもんは知らん。今年やるのは『長門ユキの逆襲Episode 00』だろうが。わざわざインチキな予告編まで作らされたんだから俺が間違えるはずはないぜ。それともハルヒが勝手に題名を変更したのか? 「はあ? って言いたいのはこっちのほうよ。『ナガトナントカのナントカ』なんて一度も聞いたことないわ。今年やるのは『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』で、最初から変わってないわよ。予告編も作ったじゃない。寝ぼけてるようなら殴って起こしてあげるけど、どう?」 何を言うか、俺はしっかり起きている。 「起きてるわけないじゃないの。だいたいそのタイトル……何だっけ、もう一度言いなさい」 「『長門ユキの逆襲Episode 00』」 「それはどっから湧いて出たのよ。そもそもそのナガトユキとかいうのは何? 人の名前?」 ハルヒはしごく真面目な顔をしている。 おいおい、自分で考えた映画の題名を忘れたと思ったら今度は長門のことを忘れたとしらばっくれる気か。冗談なら冗談っぽく言わないと人には伝わらないぜ。だいたいそんな冗談はお前的に「笑えない」冗談に分類される気がするぞ。 「あたしは冗談を言った覚えなんかないわ。だってナガトユキなんて一度も聞いたことないもの。何、あんたの中学の時とかの同級生?」 そんなバカな。 「長門有希だ。知らないのか」 背中に若干冷たいものを感じる。まさかとは思うが……。 「知らない。あんたにそんな知り合いがいたの? どんな娘、そのナガトユキとかいう娘は。何か特殊能力があったりする?」 「うちゅ――」 う人とつなげようとして危うく思いとどまった。 「SOS団のメンバーだろうが。そして、たった一人の文芸部員だ」 一番最初に長門から受けた無機質な視線や機械的に動く指を俺は一生忘れない自信がある。そんなのは正体を知っていようがいまいがハルヒも同じはずだ。 さあハルヒ、俺の平常心をもてあそぶつもりで言った冗談ならそろそろやめにしてくれないか。そういう悪質な冗談は俺の過去の体験も手伝って見えざる第六感を刺激してくれるのでね。 しかしハルヒは心底呆れたような顔をしており、そしてとうとう、嫌な予感のしている俺にとどめを刺した。 「SOS団ってあんたねえ。本当にどうかしてるんじゃないの? SOS団は一年生の四月あたりからずっと四人だけでしょ」 俺の頭を強烈なショックがぶっ叩いた。 ありえん。 ハルヒ、俺、長門、朝比奈さん、古泉。どう考えたって五人だ。これが冗談だというならそれは長門に失礼だぜ。もし本気で言ってるなら、ハルヒの頭か世界が狂ったんだ。 「バンドは」 俺の出した声は心なしかかすれていた。 「去年、文化祭のENOZのバンドでギターをやってたのは誰だ」 「三年生の人、中西さんとか言ったかしら」 そんははずはない。 「映画はどうだ。去年、俺らが文化祭でやった映画で朝比奈さんの敵を演じたのは誰だ。黒衣纏って棒を持ってた奴だ」 「谷口」 あっさりと答えやがる。くそ谷口め。お前は脇役の脇役で水中ダイブでもしてればよかったんだ。お前に長門役を務められるほどの力量はないぞ。 などと言っていても仕方ない。 冗談であるという可能性を俺が信用できないのはハルヒの顔を見れば解る。こいつは友人が覚醒剤中毒者だったと知らされたばかりのような呆気にとられた顔をしてやがる。こんな顔は見たこともない。 「ハルヒ、お前は本当に長門を知らないのか?」 「知らないわよ、うるさいわね」 「お前、確か去年の三月にあった百人一首大会で二位だったよな」 「そうだけど、何の脈絡があるの?」 「脈絡なんかどうでもいい。それよりも、あの時一位になったのは誰だった?」 俺の記憶通りならそれは長門のはずである。読書好きのヒューマノイドインターフェース。 「さあ誰だったかしら。あたしの知ってる人じゃなかったわね。黒くて長い髪をした女子だったかしら」 長門はロングヘアではない。ハルヒは一時期髪の長かったときがあったが、長門は三年前に見たときも昨日見たときもショートカットだった。 「ねえ、あんたさっきから変だけど、どうかしたの?」 「どうもしてない」 俺は即答した。どうかしてるのはハルヒの頭か、それともこの世界か。 まさか――。 この感覚。ハルヒの病人を見るような目つき。当然いるはずの人間が突然いなくなった経験を、俺は過去にしている。 忘れもしない去年の十二月十八日。 目眩がして、世界がぐるぐる回転しているような感覚に襲われた。 あれをもう一度やらせようってんじゃねえだろうな。 断片断片が次々とフラッシュバックする。シャイな長門、髪の長いハルヒ、書道部の朝比奈さん、学生服を着た古泉。 「おいハルヒ、もう一度訊くが、お前は冗談を言っているのか? 言っているんだったらすぐにやめてくれ。土下座までならしてやる」 「もう一度言うわ。言ってない。あんた本当に頭がどうかしちゃったんでしょ」 ガラガラ。 教室の扉が開く音がして、俺は反射的にそちらを向いた。教室にいた男子が廊下に出ていっただけだった。間違ってもお前だけは出てくるなよ、殺人鬼朝倉。 俺はハルヒに向き直り、 「お前、光陽園学院にいたことはないか? というか、あそこは女子校だよな」 「そう、女子校。あんたが狂ってるものとして真面目に答えてあげるけど、あたしはあんな学校には一度もいたことがないわ。一年の最初からずっと北高生よ」 世界がおかしくなってるんだとしても、冬とまったく同じではないらしい。 「すまん。もう一つだけ訊いていいか?」 「いいけど」 「お前は一年の最初の自己紹介でこう言わなかったか? 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい』とな。そしてお前は俺と一緒にSOS団を設立した。合ってるか?」 ハルヒはやや複雑そうな顔をして俺を見ていたが、やがて答えた。 「ええ、 その通りよ」 * ホームルームが始まるまで、あと少ししか時間がない。 運のいいことに俺は今日普段よりも三分ほど早く学校に到着していた。それは妹の攻撃がいつにも増して強力だったからということに尽きるわけだが、そんなことはどうでもいい。 「ちょっと外に行って来る」 ハルヒにそう言って、俺は教室を飛び出した。 ハルヒは長門の存在を知らなかった。さまざまな出来事のうち長門の部分が消されて他の何かに書き換えられている。ハルヒがおかしいのか世界が変わっちまったのか。 瞬間、俺はまたしても強烈な目眩を覚えた。 デジャヴ。 三半規管がイカれたみたいに足許がぐらついてくる。 俺はこんな気持ちで、こんなふうに廊下を走ったことがあるのだ。ハルヒに引きずられて走らされたことならいくらでもあるが、自ら全力疾走なんてのはあの時と今くらいなもんだ。 そうだ。 あの時も、俺は朝倉から逃げて教室を飛び出した。そして長門はクラスにはおらず、古泉のいるはずの九組は吹き飛んでいた。 そして今、俺はまるで同じ道を辿っているではないか。 冗談じゃない。二度も同じことをやってたまるか。 長門のクラスにはすぐ着いた。朝のホームルーム前ということもあってクラスの中は雑然としており、この人混みの中で長門の小柄な姿を探すのは難しかった。目を皿にして教室のはじからはじまで走らせるが、長門らしき女子は見つからない。 「ふざけやがって」 俺は仕方なくクラスの中に足を踏み入れた。中学の級友とかで知っている顔を探しては次々と質問をぶつけていく。 長門有希という女子を知っているか。このクラスにはいないのか。この学年にはいないのか。 まるで申し合わせたかのような完璧さ。俺が声をかけた連中はそろいも揃ってトボけた顔をしやがり、当然のようにかぶりを振った。 つまり、そんな奴は知らない、と。 なんてこった……。長門を知らないのはハルヒだけではなかったのだ。 もう偶然などという言葉では片づけようがない。冗談説も通用しない。こいつらは集団で頭が爽やかなことになってるのか、まさかとは思うが世界改変があったのか。 俺はワケの解らんだろう愚問に答えてくれた連中に意識外で礼を述べると、くるりと回れ右をして絶望感を背負って廊下に出た。 何かが起こっているのだ。 ハルヒの次は長門が消える番ってか? ふざけんな。 俺は思い出す。この次、俺はいったいどこに向かったんだ。十二月十八日、長門がいないことを知った俺は誰に希望を託した? 言うまでもない、一年九組である。古泉のハンサム面がいるはずの理数クラス。そしてあの時、一年九組はなくなっていた――。 それを二年バージョンで起こす気か。大事な時だけ消えるってのはなしだぞ、古泉。 同時に朝比奈さんの顔も思い浮かんだが、いかんせん三年の教室は遠い。同学年であったのならどちらを選ぶかは微妙だが、それは今の問題ではない。 トラウマに押しつぶされそうになりながらも俺はフラフラの状態で二年八組に到着した。 その横には見間違いようもなくしっかりと教室があって二年九組というプレートが張り付けられている。突貫工事も今回は間に合わなかったらしいな。 俺は頭の隅で聞いたことがあるようなないような怪しい呪文を唱えながら、ホームルーム中なのも構わずに扉を開けた。 「どうしました?」 担任女性教師の声をバックに、教室内の全員がギョッと俺のほうを振り向く。 「古泉は、古泉一樹はいますか?」 「ああ」 くそ! 俺が見たところこの中には古泉の顔はない。そうでなくても、俺が尋常ではない表情を顔に張り付けて他教室に侵入すれば古泉は立ち上がって俺のところに来てくれるに違いない。 今度こそぶっ倒れるしかないかと思ったが、女性教師は何やら書類にさっと目を通すと俺に向かって、 「今日は休みですね。風邪だそうです」 そう言った。 九組の生徒も特に不審がった様子は見せない。クラスメイトが風邪を引いて休んだと聞かされたときのいたって普通の反応であり、そんな奴はうちのクラスにはいないという感じの反応を示している奴は一人もいない。加えて、俺の立っている入り口あたりの机が一つ空いていた。 「それで、彼に何か用だったんですか?」 「いや……別に」 俺は適当に返事をし、その空いていた椅子に古泉一樹と印字されているのを強烈に脳に複写してから九組を出た。 廊下の壁にもたれかかって、詰まっていた何かを吐き出すように深く息を吐いた。そうすると体中から力が抜けて、壁にもたれかかったままずるずると床に崩れ落ちた。 古泉はいるのだ。 確証はない。しかし、その可能性は高い。そうでなければあいつの椅子や机なんかが九組にあるわけがないのだ。 何ともいえない感情がこみ上げてきた。嬉しい、というやつだろうかね。 欠席というのが気にはかかるが、俺からすればそれも考え得る範囲である。 たぶん、あの教師が言ったような風邪というのはまずありえん。それはおそらく欠席理由にするだけの、表向きの理由だ。この非常時にマジで風邪でも引いていようものなら俺がすぐさまベッドから引きずり出してやる。 そうではなくて、古泉が欠席している理由は『機関』関連ではないかと思うのだ。長門が消えたのはほぼ確実であり何かが起こっているというのは間違いないから、その処理か何かに追われているのだろう。 気を利かして俺に電話一本もくれないような状態ってのはどんなもんかと思うが、俺は橘京子や周防九曜、敵対未来人を知っている。もしかするとあっちで大きな動きがあったのかもしれん。それがこの長門が消えているらしいという事態に直結している可能性は大いにある。 古泉の携帯電話にかけてやろうかと思ったが、ポケットにつっこんだ俺の手は虚しく布の感触に突き当たるだけだった。ちっ。教室の通学鞄の中だ。 仕方なく俺は立ち上がった。 しかし、いったい何が起こっているんだ。考えたところで解らないだろうが、考えずにはいられん。 長門がいなかった。そして誰も長門のことを知らない。知っているのは俺だけ。 シチュエーション的には冬の世界改変にそっくりである。しかしあの時、消えたと思っていたハルヒは光陽園学院にいたし、東中出身の谷口はハルヒのことを知っていた。 あいにく俺は長門の出身中学など知る由もないが、ということは今回もそういう感じの世界改変なのか。あいつも光陽園学院にいるとか、そういうオチなのか。 それとも本気でこの世界から消えちまったのか――。 長門のクラスを横切るとき、俺は廊下の窓からふと教室内を見渡してみた。 ホームルーム中で静まっているので確認しやすかったため、長門の机や椅子がないのはすぐに解った。古泉のように席が空いているということもなかった。 全員出席なのに長門はいない。 そして、恐ろしいことに誰もその矛盾に気づいていない。長門なんて女子は最初からいなかったかのように普通に振る舞っているのだ。 当然である。 最初からいなければ誰の記憶にも残らないし、いない奴の机や椅子があるわけがない。そういう理屈だ。 俺は目を背け、早足で二年五組へ戻った。
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第3話 ~もう1人~ そろそろ俺達が崖から落ちてから10分程経っただろうか。朝比奈さんはまだ俺の胸に気持ち良さそうに顔を うずめていた。とても嬉しいことだがそろそろ俺たちも竹をとりに行かんとまずいな。 「朝比奈さん、そろそろ行きましょう。もう時間が…って!えっ!?」 「ふえっ!?どうしたんですかキョンくん?」 どうしたもこうしたも手元の時計で計ってみたところ、もう集合時間まで1分をきっていた。どうやら朝比奈 さんと寝転がっている内にかなりの時間が経っていたようだ。しかもここから集合場所までは俺一人で走った としても5分はかる。 「緊急事態です朝比奈さん。もう集合時間まで1分も有りませんよ!」 「ええ!!ほ、本当ですかぁ!?い、急がないとキョンくん!」 「分かってますよ。行きましょう朝比奈さん。」 「はい!あ、いたっ!!」 「大丈夫ですか!?朝比奈さん!!」 見るとなんと朝比奈さんのお美しい足に青アザが出来ており、朝比奈さんはそこを抑えてうずくまっていた。 どうやら落ちたときに強く足を打ちつけてしまったらしい。くそっ!俺がしっかり守ってあげられなかっった だからだ。 「あ、大丈夫ですよこれくらい。ほ、ほら…」 と言って立ってみせる朝比奈さんだが、足はぷるぷる震えてるし、顔には苦悶の表情を浮かべていおり、心配 させまいと強がりを言っているのは明らかだった……すみません朝比奈さん。俺が不甲斐無いばっかりに。 「わ、わ、わ、な!何ですか!?キョ!キョンくん!!?」 俺は朝比奈さんの背中に腕をまわし、そのまま肩を軽く掴み、さらにもう一方の空いたほうの手で両足を持っ て、そのまま朝比奈さんを持ち上げた。まぁつまり、俗にゆうお姫様だっことゆう体制になっていた。 朝比奈さんはシャミセンを無理やり持ち上げた時のように暴れていた。しゃあない… 「足怪我してるんですから、無茶しちゃだめですよ。」 「で、でも…恥ずかしいよぅ…」 それでもまだ少し暴れる朝比奈さん。こうなりゃ奥の手だ。 「良い子ですから、暴れないでください。ね。」 俺はの肩を支えていた手を朝比奈さんの頭に持っていって、そのまま頭を撫で、朝比奈さんに顔を近づけて耳 元で囁いた。 「ぇ?ぇ?ふぇ?………は、はい…」 朝比奈さんは真っ赤になって俯いてしまったが、やっと大人しくなってくれた。 俺も落ちた時に腰を痛めていたのであまり早く動けず、結局集合場所に着いたのは集合時間をすでに10分も 過ぎてからだった。あぁ…きっとハルヒのやつにとんでもなくぶちぎれられるんだろうな…そして今日の昼飯 代は俺もちなんだろうな…… しかしハルヒは何にも言ってこず、その上ただ俯いているだけだった。しかしハルヒの代わりに古泉と鶴屋さ んが声をかけてきた。 「遅かったではありませんか。それよりどうなさったんですかその体勢は。」 「こらキョンく~ん!!みくるにおいたしちゃだめって言ったろ~!」 とりあえず俺が朝比奈さんをお姫様だっこしているのをつっこまれた。まぁ当然だな。 「ところで笹はどうしたにょろ!?」 「もしや朝比奈さんがあなたの笹だとでも言うんですか?あなたもずいぶん気障になられましたね。」 勝手に気障ったらしい事言い出すんじゃねぇ古泉。 「さっき鶴屋さんにお会いしましたよね。実はそのすぐ後に後ろにあった崖に落ちちゃいましてね。はは…」 苦笑しながら言うと、鶴屋さんは笑うのを堪えている様な顔をしていたが、それでも少し心配そうな目で朝比 奈さんを見ていた。 「ぁ、だ、大丈夫ですよ。キョンくんがわたしのこと抱きしめて守ってくれましたから。ちょっと足を打っ ちゃっただけで…」 と、朝比奈さんは鶴屋さんを安心させようとして言った。少しポーっとしていたように見えたのは俺の自惚れ か? その時長門が朝比奈さんを血走った目で睨んでいた様に見えたのはきっと気のせいだろう…うん!きっ とそうに決まってる! 「凄いですねあなたは、落下している人間を空中で抱きしめて身を挺して守るなんて…どこのスーパーマンで すかあなたは。」 「いや~本当だよぉ!!凄いよキョンくん!!」 「本当に格好良かったんですよんですよ、キョンくん。」 「いやいやたまたまですよ。」 「そうご謙遜なさらずに、そんなことが出来るのは新川さんだけだとおもっtぶふっ!!?」 気になる言葉を残して突然古泉が吹っ飛びそこから長門が現れた。 「………………………」 長門は確かにいつもの無表情だったがその周りからは確実に殺意を更に5段階位飛び越えた様な明らかに危険 な空気が漂っていた。あの~な、長門さん。いったいなな何をそんな怒ってらっっしゃるんですかぁ?思わず 朝比奈さん化してしまう程長門は大迫力だった… すると突然長門は朝比奈さんに手を掲げ、例の超高速呪文を唱えだす長門。その間朝比奈さんは本気で泣いて おり、恐怖のあまり俺に抱きついていた。そして長門の呪文が終わった。 「もう足は痛まないはず…」 突然の長門の一言に呆然とする朝比奈さんと俺。成る程さっきの呪文は朝比奈さんの足の怪我を治してくれた のか。 「あなたは今すぐ彼から離れるべき。」 「ふぇ!?は!はいぃ!!」 朝比奈さんは長門の恐怖のオーラに当てられて、慌てて俺から飛びのいた。古泉苦笑しつつもにやにや。鶴屋 さん大爆笑。 「ちょっとあんた達、いい加減笹を審査するわよ」 さっきまでずぅぅっと黙っていたハルヒがやっと喋った。しかしやっぱりどこか気だるそうな感じだった。 「ああ、そうでしたね。すいません。それでは新川さん、お願いします。」 長門にぶっ飛ばされて倒れていたはずの古泉がいつのまにか俺の横に立っていた。 「かしこまりました。それでは笹をお出しください。それではまず涼宮様と鶴屋様からどうぞ。」 そう言われたハルヒは暫くの間ボーっとしていたが、鶴屋さんに小突かれて、はっとした様に鶴屋さんと何処 からか笹を取り出した… ハルヒと鶴屋さんの笹は素人の俺から見ても素晴らしさが分かるほどの物だった。 「ふむ、これは何とも素晴らしい笹ですな。実に美しい…そして何よりこのでかさ。」 そうなのだハルヒたちの竹は異常なほどでかく、そのでかさは軽く15メートルはあろうという物だった。一体 何処から出しやがったんだ。新川さんは表情にこそ出していなかったが、いい笹を見れて少々興奮気味だった ようだ。なんだ?この人はダンボールだけでなく笹にまで精通してるのか? 「あ、新川さん。」 「む、そ、そうでしたな…げふん、で、では次に長門様と古泉様の竹を。」 古泉に言われ、気を取り直した新川さん。そして長門が笹を取り出した。何処からともなく… 「「「………????」」」 ………………………………………………………………すまん…素直声が出ない。それは俺だけでなく新川さん と朝比奈さんもだった。鶴屋さんはなぜか腹を抱えて笑っており、古泉はいささか引きつった笑顔だった。 そこには何が現れたのか?しかしソレはあまりに形容しがたい物体だったため俺にソレのについての意見を求 められてもだいぶ、とゆうかかなり困る。とゆうか本当に笹なのかこれ?なぁ…長門… とゆうかこれは何なんだ一体?さっきは形容しがたいと言ったが、あえてここは言っておいたほうが良いな。 おい長門。この触手だらけの植物のようなものは何だ?どう見たって危険な生き物にしか見えないぞ。 「危険ではない。これはマン○ーター。」 その名前じゃ余計危険にしか聞こえんぞ長門…つーか笹じゃないだろマン○ーターは… 「マン○ーター?これはマン○ーターではない。ただのでかい笹。」 うそ付け!さっきまで自分で言ってたじゃねーか。とゆうかこんな不思議丸出しみたいなもんハルヒに見せて 良いのか?ん?何だ?ハルヒのやつ、どうしようもないくらいボーっとしてやがる。何なんだ一体?まあ気付 いてないんならそれで良いんだが… 「……審査を…」 これは長門だ。 「むぅ、これは難しい審査でした…しかし、今回の大会の審査対象が笹である以上!マン○ーターは審査対象 とみなします。よって…涼宮様と鶴屋様の優勝でございます!」 「やったにょろ~!!めがっさやったね!ハルにゃん!」 飛んで跳ねて喜ぶ鶴屋さんだったが、ハルヒはなんだかいまいちの反応だった。いや、むしろ無反応に近かっ た。珍しい事も有るもんだな、ハルヒが勝負事に勝ったのに大喜びしないなんて。 「ところでハルヒ、これからはどうするんだ?笹とってそれで解散か?」 「………」 話しかけたが、返事をせずにただボーっとしているだけだった。何だコイツは、いきなり無視か? 「おいハル「それでは笹とり大会も終わったことですし、皆さん、昼食にしましょう!」 俺がハルヒに声をかけようとしたら古泉のヤロウが割り込んで遮ってきやがった。一体何がしたいんだコイツ は。 しかし、俺が古泉に文句の1つでもぶつけてやろうとしたら、突然朝比奈さんがちょんっと俺の裾を引っ張っ て、上目遣いで俺を見上げていた。く~正直たまりません!! 「キョンくん、お昼ごはんの準備をしますから、そのぉ…手伝ってくれませんか?」 あなたにそんな顔で懇願されたらどんな無茶な注文だって受け付けますよ。 「ふふ、ありがと。」 そしておれは朝比奈さんと先に昼飯の準備(といっても昼飯自体は朝比奈さんが弁当を作ってきてくれたので 折りたたみ式のテーブルと椅子を出すだけだが)をしている新川さんと鶴屋さんの所へ向かった。 ふと振り返って見ると古泉は未だにボーっとしているハルヒになにやら話しかけていた。 ん?長門はどうしたかって?あぁ、長門なら突然マン○ーターを引っ張って物陰に隠れたと思ったら、直後 にすごい派手な音をたてだしたな…何なんだ?今度はマン○ーターと戦ってんのか、長門よ… さて、昼飯の準備も終わってハルヒ、古泉、長門を抜いた俺たちは朝比奈さんがお作りになられた弁当をつつ いている。 「どうですかぁ?変な味とかしませんか?」 「安心してください、とてもおいしいですよ。」 「本当ですかぁ?良かったぁ。」 ああ、マジでうまい。この弁当こそきっと神の味という代物に違いない。 と、暫くして長門が帰ってきた。ん? 「おい長門。何だそれは?」 長門は両手に料理の盛られた皿を持っていた。 「……野菜炒め。」 野菜炒め?なんだかいやな予感をひしひしと感じるんだが… 「あなたは先ほどから何も食べていない。これはあなたに…」 と言って長門は新川さんに野菜炒めを渡していた。 「有難く戴きましょう。」 と、新川さんは初孫の誕生を喜ぶ爺さんの様な顔で長門を見ながら言った。そんなとても嬉しそうな顔してい る新川さんを見ていると、とても長門の料理に文句なんて言えなかった。だから俺は小声で長門に聞いた。 「おい長門、今度は何を入れたんだ?またミノタウロスか?」 「今回はミノタウロスは使っていない。ただの豚肉…」 「そうか、ところでマン○ーターはどうしたんだ?ん?野菜炒め?……おいまさか!?」 「…………。」 「あ!!新川さ「ぐっ!!がっ!?………ふっ…」バタッ 「美味し過ぎて気絶した。」 新川さんはのた打ち回った後に気絶した…朝比奈さんは半泣き状態、長門は新しい野菜炒めを取り出した。 「朝比奈みくる、あなたはお弁当を作ってきた。これは私からあなたへの感謝の気持ち。あなたのはマンイー ターだけでなく肉はミノタウロスを使っている。とても美味。」 野菜炒めを持って本気で泣いてる朝比奈さん迫る長門。 「こらこら、止めなさい長門。朝比奈さんが泣いてるじゃないか。」 「何故?私は感謝の気持ちを表したいだけ。」 「だとしても、マンイーターなんて、人間が食べたら死んじまうだろーが。それは自分で食べなさい。」 「……そう、分かった………チッ、モウスコシデジャマモノヲケセタノニ……」 「ん?なんか言ったか長門。」 「何も。」 はぁ、危なく朝比奈さんを見殺しにしてしまうところだった… 「キョンく~ん。怖かったよぉ。」 あ、あぁ!朝比奈さん。そんな急に抱きつかれたら、特大のバストが……あぁ、俺もう死んでも良いや。 しかし長門は俺たちのそんな様子をとんでもなく鋭い眼光で睨んでいた。 そんなこんなで騒いでるうちにハルヒと古泉がやってきた。 「皆、そろそろ部室に戻るわよ。」 「お前は昼飯を食わんのか?」 「ええ、なんか食欲がわかないから良いわ。あ、ごめんねみくるちゃん、せっかくお弁当作ってくれたのに。」 「あ、気にしないで下さい。」 なんとあの食欲の権化のハルヒが昼飯を抜くとは。まして朝比奈さんの弁当を食わないなんてな。何かあった のか?それともこれも七夕パワーか?とゆうかやっと返事を返すようになったか…さっきまでのシカとの嵐は 何だったんだ? 「さぁみんな!この短冊にお願いを書きなさい!」 部室に帰ってきた俺たちにハルヒは短冊を配り叫んだ。因みに気絶していた新川さんだが… ……… …… … それは少し時間を遡ってあの山から帰る時の事。 「ところで、新川さんはどうするんだ?やっぱり担いで連れて帰ったほうが良いのか?」 完全にのびちまってる新川さんを指差しながら、俺は古泉に聞いた。しかしその答えは意外なところから返っ てきた。 「その必要はありません。新川はこちらで連れて帰ります。」 森さんである。一体いつの間に…? 「僕が呼んでおいたんですよ。新川さんが倒れてしまいましたからね。」 「まぁ森さんが来ること自体は別に良い。だがな…森さんの後ろにいるその人たちは一体誰だ?」 そう、森さんの後ろには黒いサングラスに黒いスーツを着たいかにも怪しそうなごつい男が二人も立っていた のである。 「知っていますか?世の中には知らないほうが幸せな事とゆう事も有るんですよ。」 古泉はいつもの爽やかな笑顔を少し邪悪なものに変えて言った。よく見ると、森さんも満面の笑みながらもそ の笑顔からは邪悪なものを感じ取れた。なんだか機関がとても恐ろしい組織に思えてきたな… そうして、新川さんは二人のこわもての男たちに厳かに運ばれていき、それに森さんも付いて帰っていった。 ……… …… … とゆう訳である。 「ん?おいハルヒ。今年は短冊は1つだけなのか?」 ハルヒが短冊を配り終わってから俺は気づいた。去年は2枚も書いたのにな。 「ええそうよ。よく考えてみればこうゆうのに科学的な理論は必要無いと思うのよ。」 何だかんだ言ってはいるがただ単に10何年も待ってられなくなっただけじゃねえのか? 「とにかく、こーゆのは気持ちの問題なのよ!だから1つで十分なの!」 「やれやれ。」 「あっ、それから自分の短冊は他の皆に見せちゃ駄目だからね。その方が願いが叶いそうだわ。」 そう言ってハルヒは、脚立を使ってさっき鶴屋さんととってきた巨大な笹のてっぺんに自分の短冊を括り付け た。丁度俺も書き終わったとこなのでハルヒの後に括り付ける事にした。ん?何だコイツは… 呆れた事にハルヒは俺の脇から横目で俺の短冊の内容を覗き見ようとしていやがった。 「おい、短冊は自分以外見ちゃいけないんじゃなかったのか?」 そう言うとハルヒは一瞬だけしまったって感じの顔をしたが、すぐにまた眉毛をキュルリと吊り上げ、俺を睨 みつけてきた。 「何言ってんのあんた!団長には団員がどんな願いをするのかしっかり確認する義務があるのよ!」 「それじゃあ、俺の願いは叶わないんじゃないのか?」 「猪口才な事言ってないで今すぐ見せなさぁぁい!」 やれやれ、まったくコイツは… 「お、そういや古泉が『涼宮さんをを嫁にくれ。』って書いてたぞ。」 「えぇ!?ほ!本当に!?古泉君!」 もちろん嘘だが。 「い、いえ、そんな事かいてませんよ…適当なこと言わないで下さいよ。」 よし、ハルヒが古泉に気をとられてる内に… 俺は馬鹿でかい笹の特に笹の葉が多く茂っているところの一番奥に短冊を突っ込んだ。 「ちょっとキョン!何適当な事言ってんのよ…ってあんた!短冊はどうしたのよ!まさか…もう吊るしちゃっ たなんて言うんじゃないでしょうね!」 ああ、その通りだが。 「な!?どこよ!どこに吊るしたのよ!?今すぐ取り出しなさい!」 「こんなでかい笹持ってくるから見つからないんだよ。」 その後もハルヒはぎゃあぎゃあ言っていたが、俺は鮮やかにその全てを無視し、朝日奈さんの煎れて下さった ありがた~いお茶を堪能していた。 全員が短冊を掛け終わった後に 「じゃあもう今日はそのまま解散ね。」 とハルヒがいった。やれやれ、やっと帰れるか… 「ただしキョンとみくるちゃん。あんた達は笹とり大会でビリだったから罰ゲームよ!」 はぁ、そういや最初にそんな事を言ってたな。どうせろくでもない事をさせられるんだろうな… 「罰ゲームは荷物持ちよ!みくるちゃんは鶴屋さんの、キョンはあたしのを運んでもらうわよ。」 何だそんな事でいいのか、確かに面倒だが定番ちゃあ定番だな。朝比奈さんもほっとした様に大きく息を吐い ていた。 「た・だ・し、みくるちゃん。あなたはそのメイド服のままで荷物持ちをしなさい!!」 「え?え!?な!?なんでですかぁ?何でわたしだ「黙りなさいっ!」 「ひぇっ!!」 割合…いや、むしろかなり真剣な顔で朝比奈さんを睨むハルヒ。 「何でそうなるのか自分の胸に手を当てて考えなさい!」 とても困惑して、震えている朝比奈さん。そしてそれを睨むハルヒ。古泉が後ろで止めようかどうか迷ってい る様だった。長門でさえハルヒと朝比奈さんをじぃっと見ていた。 そして暫くして朝比奈さんはハッとした様だったが直後に俯いてしまった。 「おいハルヒ。あんまり朝比奈さんを脅かすなよ。泣きそうじゃねぇか。」 ハルヒはそう言った俺をキッと睨んだが、暫くして俯いて何かぶつぶつつぶやき出した。 「……なによ……いっつもいっつも…みくるちゃんの事ばっか………」 なんだ?よく聞こえん。 「なんだって?何て言ったんだ?」 「何でも無いわよ!このバカキョン!!さっさと帰るわよ!荷物持ちなさい!!」 と言ってハルヒは俺に荷物を押し付けて部室を早足で出てった。俺は朝日奈さんと鶴屋さんに一礼してハルヒ を追いかけて部室を出て行った。 「おい待てよハルヒ。」 俺はハルヒに追いついて声を掛けたがハルヒは黙って俯いて歩いていたので、しょうがないので俺も黙ってつ いていった。 暫く歩いてハルヒは突然立ち止まった。 「家…此処だから。」 ハルヒはそう言って黙って俯いたまま手を差し伸べてきた。ああ荷物か… 「ほらよ。」 俺はハルヒに荷物をわたし、そのまま帰ろうとした。 「あんた…笹とりの時にみくるちゃんと何やってたのよ。」 何言ってんだコイツは。 「だから、崖から落ちて動けなかったって言っただろ。」 「そんな事聞いてんじゃないのよ!!!」 ハルヒはぐわっと顔を上げていった。 「あんた……みくるちゃんと…抱き合ってたじゃないのぉ!!」 なっ!?コイツ見てやがったのか!?一体何で!?何処で!!? よく見るとハルヒの瞳からは大粒の涙が次から次から零れ落ちていた。 「何なのよ!!何のつもりなの!団活中にいちゃついてんじゃないわよ!!ふざけてんじゃないわよ!!…い っつもいっつもみくるちゃんの事ばっかり…」 「………」 俺は何も言い返すことが出来なかった。ハルヒはさっきより更に大粒の涙をボロボロと目から零していた。 「…あんた……みくるちゃんの事………」スッ…ドサッ ハルヒはそこまで言うと急にそこに倒れてしまった。 「な!?おい!ハルヒ!!ハルヒ!!どうしたんだ急に!!おいっ!!」 「…………」 しかし、ハルヒはまったく返事を返しはしなかった… 「ハルヒ!ハルヒ!しっかりしろ!!くそっ!」 しかし幸か不幸か此処はもうハルヒの家の前だ。 俺はハルヒを抱き上げてハルヒの家のドアを開けた。 …ガチャ… よかった。鍵は開いてるようだ。ハルヒの部屋は…此処か。 俺はハルヒをベッドに寝かせると一息ついた。改めてハルヒの部屋を見渡してみる。ふむ、以外にも普通の部 屋だな。ん?なんだこれ。 ハルヒの机の上には小さな笹があり。そしてその笹には1つの短冊がぶら下がっていた。なんて書いたんだろ うな。 「どれどれ?うちの団長様は今年は一体何を願ってるんだろうな。」 俺はそれを裏返した… 「はぁ…まあそんなこったろうと思ったがな。」 そこにはこう書かれていた。 『ジョンに会いたい』 どう考えたってこの願いは危険すぎるんじゃないか? すると突然背後から声が聞こえた。 「ジョン…」 な!?ハルヒ? 突然ハルヒの声が聞こえ、俺はハルヒのほうを見た。しかしハルヒはまだ眠っていた。 何だ…寝言かよ。 「寝言なんかじゃないわ。こっちよ。」 は!?その声は何故か部屋の入り口から聞こえ、当然俺は振り向いた。そこには… 「何なんだよ…お前、一体何なんだよ…」 そこには、もう1人…ハルヒが立っていた。 ……… …… … それは7月7日の夕方…そこはある国のある都市のあるビジネスホテルのある一室での出来事。 …コンコン…「失礼します。お呼びでしょうか、森さん。」 「一樹くん、今日は仕事じゃないのよ。いつもみたいに呼んでよ…」 「これは失礼を、園生さん…」 「一樹くん…」 部屋の奥のベッドの上で古泉と森は一緒に横になっていた。 「一樹くん、ここからは仕事の話よ。」 「そろそろくる頃だと思っていましたよ…どうぞ。」 古泉は一瞬寂しそうな顔をしたが、森を困らせまいとすぐにもちなおした。当然森も古泉のその気持ちもわか ていたし、自分も同じような気持ちであったが、仕事では仕方ないとゆう事も分かっていた。 「はい、あなたに新しい任務に就いてもらいます。本来は新川に頼む予定だったのですが、知っての通り、体 調が優れてはいません。」 「そうですか。」 この時森は気付いていなかったが、古泉はニヤリと不気味な笑みを零していた。 「判りました。それで、任務の詳細は?」 「はい、あなたの新しい任務は………キョン氏の暗殺です…」 涼宮ハルヒの方舟 第3話 ~もう1人~ おわり ~次回予告~ キョン「はい、じゃあ今回は一回目と言う事で俺が予告をするぞ。」 突然現れたもう1人のハルヒ… 「『あたし』はジョンに会いたいのよ!」 そして俺の暗殺の任務を受けた古泉… 「残念ですが、SOS団はもう終わりです………死んでください。」 夕方の公園で俺と並んで立つ長門… 「貴方は我々の計画の邪魔……消えてもらう…」 涙にぬれる朝比奈さん… 「本当はこんな事したくはないんです!!キョンくんといつまでも一緒に居たかった!!それでも…それでも わたしに禁則事項の暗示がある限り組織の指令に逆らう事は出来ないんです!!!」 果たしてもう1人のハルヒの正体とは一体、そしてSOS団の運命は… 次回『涼宮ハルヒの方舟 第4話 ~計画~』 キョン「いや~、一体どうなるんだろうな~。俺、生きてまた予告できんのかなぁ…」 ???「それは不可能ですよ…」 キョン「な!?誰だ!お!おまえは…わ!わ!やめ……アッー」 ???「マッガーレ」 さて、次回の次回予告は誰がやるんだろうな… 第4話へ
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autolink SY/W08-023 カード名:涼宮ハルヒの朗報 カテゴリ:クライマックス 色:黄 トリガー:2 【永】あなたのキャラすべてに、ソウルを+2。 みんな聞いて!朗報よ! レアリティ:CR illust.- 谷川流・いとうのいぢ/SOS団 初出 アニメージュ2006年8月 ・対応キャラ カード名 レベル/コスト スペック 色 見えざる信頼関係 ハルヒ&キョン 1/1 5500/1/1 黄
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第二章 俺の安らかな眠りを妨げる者は誰だ。 目覚まし時計が朝を告げる音を軽やかに鳴らす。 朝特有の倦怠感と思考の低下は、俺の1日の始まりである。 不機嫌な状態で居間へ下り、テレビを観てハッとする。 「8 45」 あれれー? 急いで洗顔を済ませ、歯を磨き、着替えて愛車にまたがる。今日は朝飯抜きだ。 「待て。」 「あ?」 振り返ると1人の男がいた。俺の全神経が集中する。この自嘲的な笑みが憎たらしい。 こいつはいつぞやの俺と朝比奈さんの邪魔をした未来人っぽい奴。 「生憎、俺は男に興味は無いのだが。」 「忠告しに来ただけだ。死にたくないなら、今日は行くな。」 「お前を信用出来ない。お前は俺の敵だろ。」 「知るか。俺の敵は朝比奈みくるだ。」 「朝比奈さんは、俺の見方だ。その敵は俺の敵でもある。」 「まあいいさ。規定事項で近日中にお前は死ぬことになっている。」 ますます嫌な事言うな。「俺はその規定事項を破る為に来た。 お前の存在が与える影響は大きい。お前は未来にとって必要な鍵だ。失うわけにはいかない。 信じる信じないはお前の勝手。俺は勝手に動く。」 そう言ってあいつは俺に背を向け、どこかへ消えた。 駅前に到着する頃には、当に9時を過ぎていた。 「あんた、遅れたら死刑だって知ってる?」 ニゲタイ。デモ、ニゲラレナイ。 目の前の鬼は、表面上は笑顔を取り繕っているが、体から放つオーラが半端じゃない。 「さぁ今日は沢山食べるわよ~♪」 あぁ、不況が続く。 古泉が小声で話し掛けてくる。顔が近い。 「長門さんに頼んで、今日はあなたと涼宮さんを離します。事態が収まるまで続けますよ。」 いつ終わるんだよ。一生はないよな。 「大丈夫。人の記憶は短いですよ。彼女も直ぐ忘るはずです。」 その後ハルヒは、飯まで食いやがった。俺の金で。 「いいじゃない。あんたも食べてるし、遅刻した罰よ。」 それは目覚ましの………もういい。悲しくなる。 さて、くじ引きの時だ。古泉によれば、長門の力で俺とハルヒを離すらしいが…… 「では、僕から。」 古泉はそう言いながらくじを引く。 「印付きです。」 「………」 無言で長門が引く 「印付き。」 そう言い終えると飲みかけのサイダーを音も無く吸い出す。 「次はあたしね♪」 ハルヒが引く 「印無しよ。」 「じゃあ、次は私が。」 朝比奈さんが引く。 くじを前に悩む顔が可愛らしい。何引いたって結果は同じさ。 「印付きです。」 朝比奈さんは柔和な顔で俺にくじを見せた。 とても和みmあれ? 今回はハルヒと一緒。確か俺はハルヒ以外と組むはずなのでは? 古泉を見ると口をあんぐりさせ、長門の方を見ている。 一方、長門はといえば無表情のままだが、どこか情緒不安定に……見えないな。 「さぁ!!行きましょう。」 太陽も引っ込むような笑顔で、ハルヒは俺の手を引っ張り、外へ出ようとする。 その姿はまるで、クリスマスイブにプレゼントを買って貰えるとはしゃぐ、子供のようだった。 俺は金が少ない。会計は古泉に任せてとんずらする事にしよう。 外へ出た俺とハルヒだが、特に行く所も無く、 「何処行くか?」 「ん~あんたの好きな所でいいわ。」 「じゃあ、ゲーセンでも行くか。」 ハルヒしばらく考えた後「いいとこ目つけたわね。そういう場所には宇宙人とかがいるのは定番だし。」 どこが定番なんだろうか。やけに上機嫌なハルヒはドカドカと道を歩み出した。 どうでも良いが、街のど真ん中で鼻歌は止めてくれ。一緒にいる俺まで恥ずかしい。 すると、急に俺の携帯が鳴りだす。古泉からのメールだった内容は… 『先ほどはよくも、逃げて頂きましたね。代償は大きいですよ。 ところで本題ですが、詳しい話は後ほどにでも 現在はお2人を後ろから監視してます。 何かあったら直ぐに駆けつけますので御安心を P.S 良いデートを。ただし、密室は避けること。』 なにが『良いデートを』だ。殴ってやりたいね。いや、殴ってやる。 まぁ密室は避けるべきだな。俺の命に関わってる事だし。 だいたいこんな事になったのもハルヒの妄想電波のせいであり…… 「何してるの?早くついてきなさいよ!」 やれやれ、死のカウントダウンが始まったようだ。 助けてくれ親愛なる仲間たちよ。 十分後、近くのゲーセンに着いた。ハルヒは真っ先に近くのゲームをし始める。 ふと、俺の携帯が呼び出しをしていることに気づく。 長門からだった。 「長門か?」 「トイレで待つ。」 俺は曖昧な返事をして電話を切り、トイレへ向かう。ハルヒに言う必要はない。 トイレの前に古泉はいた。嫌な予感がする。 にやけ面が口を開く。 「どうも。」 「説明してもらおうか。」 「それはですね…」 一呼吸おき、 「や ら n」 「古泉。お前が泣くまでッ殴るのを止めないッ。」 「何もそこまで……アッー!!」 トイレの中で古泉を張り付けにした後トイレの外で長門と朝比奈さんに会う。 「あれ?古泉くんは何処ですか…?」 今頃トイレでキリストになってますよ 「きりすと?」 首を傾げて朝比奈さんは言った。今更だが、朝比奈さんの知識は俺達とかなり異なるみたいだ。 だがしかし、未来人として、歴史を知るという事は重要ではないのか? これがゆとりの力だろう。 「簡単に言ったら救世主ですね。確か一度死んで復活したとかしないとか。」 「宗教的ですねぇ。」 宗教ですからね… 「説明する。」 キリストならもう俺が話したが? 「そちらの方をして欲しい?なら、説明する。 彼が何故救世主と崇められたのは、彼の弟子のユダの裏切りにより…」 「もう結構です。」 「……そう。」 「要点だけ言ってくれる?」 キリストの話じゃないぞ 「結論から言う。私の力が働かなかった。」 「どういう事だ?」 長門の力が働かない? 急進派の陰謀で俺を殺すためとか? 妨害電波の発生か? 四次元ポケットの故障か? 「どれも違う。これは涼宮ハルヒが求めたからである。彼女の力が私の力を上回っただけの事。」 ハルヒが望んだ? 「そうです。彼女がそう望んだのです。羨ましいですね。私もあなたと一緒にいt……ぎゃあ。」 古泉。てめぇ、いつ抜け出しやがった? 「あ、あああ朝比奈さんに助けて頂きました。」 「ふぇ…いけませんでしたか?」 そんな事御座いません。あなたの決定は俺にとって絶対ですからね。 「で、俺はどうすれば良い。」 「………特に無い。」 「ただし、付かず離れずを保って下さい。」 付かず離れず? 「涼宮さんの興味をあなたに引きすぎてもダメ、逆も同じです。」 どうして? 「つくづくあなたは鈍感ですね。本当は気づいているのでは?」 古泉の溜め息が響く。 「………のろま。」 長門まで何を。しかし、まっったく解らん。 「乙女心ですよっ。男のキョン君には、解らないんですね♪」 男の古泉が乙女心を知っているのが不思議なのだが。 朝比奈さん…そんなに嬉しそうに言わないで下さいよ。馬鹿って言われてる気分です。 「これ。」 長門は小型のチップを手渡した。 「発信機。見失っても安心。」 「では、これで。」 3人は俺に会釈(長門は一瞥)をして出て行った。 何故かは知らんが「のろま」という言葉だけ俺の耳に残る。 俺は亀ではない。 渋々ハルヒの所に戻る さて、ハルヒは何か景品を取ったらしく、 「これ、要らないからあんたに一個あげるわ。携帯にでもつけなさい」 俺はハルヒからツキノワグマのぶーさんのキーホルダーを貰った。 「変な趣味だな」 「う、うっさいわね。嫌なら返してよねっ。」 ハルヒから不機嫌オーラが出てくる。 ここは、受け取るべきだな。 「いや、有り難く頂きますよ団長さん。」 「そっ…それならいいのよ。初めから欲しいって言えこのバカ!!」 ハルヒは怒ったような、悲しいような、だけど嬉しそうな…とにかく、滅茶苦茶な表情をしていた。 本当、何が言いたいのかね。 「さぁ、次やるわよ!」 ハルヒはいつもの表情に戻るや否やクレーンゲームに興味を示した。 まぁその辺の詳しい事は割愛させて頂く。 ハルヒはまたぶーさん人形をゲットし、他のアーケードゲームに興味を示す。 勿論、俺も参加する。まぁ、その辺はどうでもいい。問題はその後だった。 とりあえず、長門達が見つかった。 ハルヒが「プリクラを撮るわよ!」とか言って中に入ろうとしたからだ。 普通、誰か居るの確認するだろ。 その後古泉が、「おや?奇遇ですね」などと抜かし、すたこらどっかに消えて行った。 「やっぱりね。」 何が「やっぱりね。」なんだ? 「今までずっとつけられてたのよ。気づかなかった?」 生憎、俺には気を探る能力や、どこぞの宇宙人が持つスカウターは持っていないからな。 「今までの全部見られてたのよ!!恥ずかしいったらありゃしない!!」 「おお、キョンと涼宮じゃないか。」 谷口がいた。変な奴に見つかったな。 「遂に2人でデートか?アツアツだねー。」 「な、何よ。冷やかしに来たの?」 ハルヒは頬を赤らめた。俺だって恥ずかしい。 「あら、その手に持っているの何?」 「あぁこれか。早急拾った………なぁ。」 「どうしたんだよ。」 谷口は俯きながら何か躊躇するような姿勢をとる。 「俺ら友達だよな。」 「は?当たり前だ。」 「涼宮は?」 「一応一緒のクラスだし、友達でもいいんじゃない?何なら下僕にしてあげてもいいのよ。」 ハルヒはニヤリと小悪魔みたいに微笑む。 「ハハハ…お前らしいや。ホント良かったよ。お前らが仲間で。」 「お前何言ってるんだ?悩み事ならh……!!?危ねぇ!!避けろハルヒ!!」 谷口の手が光る。あれはナイフだ。それがハルヒに向けられる。 「……え!?」 間に合え!! 俺はハルヒからぶーさん人形を引ったくり、ハルヒを突き飛ばす。 そしてそれを谷口へ向ける。 ナイフはぶーさん人形に突き刺さった。 「谷口ィィィ!!!てめぇ……よくもッ!!」 俺は吹っ切れた。渾身の力で谷口へ殴りかかる。 その手を誰かが止める。古泉がいた。 「いけません。」 止めるな。こいつはハルヒを……… 俺は必死に足掻く。 「彼を見て下さい。もう何も出来ません。」 谷口は自分の手を見て目を疑っていた。 「AWAWAWA……俺……何してんだ?何で……何でこんな事を………ゴメン………ゴメン。」 「落ち着いて下さい。さぁ、ここは人目につきます。外へ。」 横で呆然としていたハルヒを抱え、外へ出る。 その後ハルヒはぐったりとしていたが直ぐに眠りに落ちた。 古泉が誰かに電話をしている。どうせ機関の誰かだろう。 程なくして車が来る。森さんだった。 古泉は谷口を車に乗せる。 「わたしも行く。」 長門も車に乗り込み、車は発車する。 「何で警察じゃないんだ?」 谷口は立派な殺人未遂犯である。警察に突き出すのが当たり前だ。 「気付きません?」 「……ナイフ。」 朝比奈さんが感づいたように呟く。 「まさか谷口……」 その先は言えなかった。悲しすぎた。言うに耐えなかった。 「ええ、ご想像の通りでしょう。」 また車が来た。今度は新川さん。 「涼宮さんとどうぞ。家まで付き添ってあげて下さい。」 ハルヒを抱え、車に乗る。 「古泉。」 「何でしょうか。」 「お前の力凄いな。俺の本気が簡単に止められたのは初めてだ。」 「ふっ、知ってますか?オカマやゲイが強いのは定番なんですよ。」 不思議な名言を残し、古泉と朝比奈さんは手を振る。 「宜しいですかな?」 「お願いします。新川さん。」 車は発車する。 「キョン……」 起きたかハルヒ。 「うん……助けてくれてありがと。」 ハルヒはまだ朦朧としている。 「大丈夫だ。俺がついている。」 ハルヒは急に瞼を全開にして、赤くなる。 「そ、それって…」 「何たって俺はSOS団の雑用係だからな。」 ハルヒは機嫌を損ねたようで、俺のふくらはぎをつねる。 俺何か悪い事言った? 「目覚めたなら頭どけてくれるか?膝枕は意外に疲れるんだ。」 「……バカキョン。」 すると、俺の頬に生暖かい物体が触れた。 ミラーに写る新川さんがにやけていた。 「………お礼よ。」 「………そっか。」 あ、自転車忘れた。 第三章へ
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4月のある日曜日、俺は自宅近くの公園でバスケをしている。何故唐突にバスケなんぞをやっているのかと言うと、実は中学2、3年の頃バスケをやっていたからだ。言っておくが、部活でやっていたのではなく、当時俺の学年でとあるバスケ漫画が爆発的に流行り、 それまでバスケをやったことのないやつらも休み時間にバスケをするようになったので、ご多分に漏れず俺もバスケをやり始めたのだ。バスケ部の連中にドリブルやシュートのテクニックを教えてもらい、受験の為に塾に入らされるまでずっとやっていた。 そして今日。暖かな春の陽気に誘われて、物置からすっかり埃をかぶったボールを引っぱり出して、20分ほど前からシュートを打ち続けている。2年近く運動から離れていたにも関らず、意外にも体はスムーズに動いてくれる。いや、この1年間は酷使してきたのか?あいつに出会ってから。 なんて考えたのがいけなかったのか、 「あら、キョン。珍しいわね。バスケ?」 向こうからハルヒがやってきてしまった。 「おまえが今日、SOS団を休みにしたことよりは珍しくねぇよ」 「今日はちょっと用事があるのよ」 ここの近くでか?と尋ねると、ハルヒは顔を右に逸らし、 「そ、そうよ。あんたの家の近くに用事があっちゃ悪い?」 と妙に早口で言った。しかし、俺の家の近くで宇宙研究員によるアールグレイ身体解剖展覧会でもやっているのだろうか。 「あんた、あたしを何だと思ってるわけ?」 ハルヒは渋面をつくり、俺を睨んでいた。光線でも出るんじゃないのか? 「そんなことより、キョン。あたしと勝負よ!」 何の勝負だよ。 「それに決まってるじゃない」 そう言って、俺が小脇に抱えたバスケットボールを指し、 「もちろん、負けた方がジュース奢りよ!」 笑顔で罰ゲームを決めた。別にかまわんが、何点先取だ?俺がそう問うと、ハルヒはフフンと鼻を鳴らし、 「相手が参りましたと言うまでっ!」 団長様のご好意により、俺の先攻になった。ハルヒは余裕そうな表情で、 「あ、もちろんあんたはポストアップ無しよ」 わかってるさ。だがな・・・ 「ハルヒ」 「なによ?」 「俺は結構うまいぞ」 試合開始。 もう何本目かわからない俺のシュートがネットを揺らす。 「もーっ!セコい!ペテン師!卑怯者!」 そうハルヒが喚いているが、それに当たるプレーはなにひとつやっちゃいない。運動神経抜群のハルヒが相手なので、多少本気は出したが。 「もう疲れた!キョン、何か飲み物買ってきてちょうだい。甘ったるくないヤツね」 罰ゲームはどこいった。それに俺だって疲れたし、喉も渇いた。 とは言わず、へいへいと平返事をして自販機で適当なスポーツドリンクを2本買ってきた。 お互いにべンチに座ってそれを飲んでいると、 「あんた、バスケできるのね。意外だわ。天動説が実は地動説だったことよりも意外よ」 後半の感想はわかりかねるが、前半だけなら納得だね。 「いい汗かいたし、そろそろ帰るわね」 そう言って立ち上がるハルヒ。 そういえばハルヒ、なんか用事があったんじゃないのか?ハルヒはギクリという擬音が見事にハマりそうなリアクションをして、 「あ、えーっと・・・うん、そう。そうなのよ!この用事、本当は来週の予定だったのよ!」 おいおい、しっかりしろよ。その歳でボケて年金生活をどう乗り切るつもりだ。しかも明後日の方を向いて、妙に挙動不振だし。 「何でもないのよ!じゃあ、また明日ってことで!」 最後まで挙動不振だったな、なんてハルヒの行く末を心配しつつ空きカンをゴミ箱に投げ入れた。 結局ハルヒの用事が何だったのかは、次の週になってもわからなかった。
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一体、何がどうなっているのか。 この状況下を理解できている奴がいるならとっとと俺の前に来てくれ。すぐには殴らないから安心しろ。 洗いざらい聞き出してからやるけどな。理解できるのは首謀者以外ありえないからな。 『一度しか言わないので、聞き逃さないようにしてください』 そう体育館内に聞き覚えのない声が響き渡る。 まず、状況を説明しよう。俺たちは今体育館にいる。外は薄暗く、窓から注がれる月明かりしか体育館内を照らすものがないが、 それで体育館内の壁に立て掛けられている時計の時間がかろうじて確認できた。1時だそうだ。午後ではなく午前の。 体育館内には北高生徒が多数いた。皆不安そうな表情を見せつつも、パニックを起こすまでには至っていない。 何でそうなる可能性を指摘しているのかと言えば、俺たちがどうしてこんな夜中に体育館にいるのかがさっぱりわからないからだ。 俺は確かベッドに潜り込んで寝たはずだ。次の瞬間、気が付いたら体育館の中と来ている。 夢遊病でも制服まで着込んでこんな遠くまでくるなんてありえないし、大体これだけの大人数が突然夢遊病に かかって同じ場所に集結するなんて絶対にあり得ないと断言できる。ならば、これは何者かがしくんだ陰謀と見るべきだろうな。 それも、普通の人間の仕業ではなく、いつぞやの雪山で起きた建物に俺たちを閉じこめてレベルの連中が仕掛けたのだろう。 俺もここまで冷静な思考ができるようになっていたとはうれしいよ。 『ルールは簡単です。今から3日間、あなた達が生き残れば何もかも元通りになります。しかし、全員死んでしまった場合、 この状況が現実になってしまいます。ようは一人でも生き残れば、例えその他の人が死んでもそれはなかったことになり、 一人も残れなかった場合は全員死んだままになると言うことです。あと助けを求めようとしても無駄です。 現在、この空間にはこの施設内以外には人間は一人も存在していません。電話も通じません』 一方的すぎる上に訳がわからん。どうしてこんなことになってしまったのか。前日を思い出してみるか。 ◇◇◇◇ 季節は春。3学期も半ばにさしかかり、残すイベントは球技大会ぐらいになっていた。 俺たちはいつも通りにSOS団が占領下においている部室に集まって何気ない日常を送っていた。 放課後になって、朝比奈さんのお茶をすすりつつ、古泉とボードゲームに興じる。 ワンパターンと言ってしまえばそれまでだが、平穏であることを否定する必要もない。 「おい、ハルヒ」 相変わらず激弱な古泉をオセロで一蹴したタイミングで、俺はあることを思い出してハルヒを呼んだ。 退屈そうにネットをカチカチやっていたハルヒは、 「なーに?」 「今度、球技大会があるだろ? おまえも参加しろよな」 「いやよ、めんどくさい」 とまあつれない返事を返されてしまった。ちなみにこうやって参加を促しているのは、 別にスーパーユーティリティプレイヤー・ハルヒを参加させてクラスに貢献!なんて考えているわけではなく、 クラスメイトの阪中からハルヒを誘ってほしいと言われたからである。 最初は戦力としてほしいから言っているんだろうと思ったが、もじもじしている阪中を見ていると どうも別の理由があるらしい。ま、いちいち他人のことに口を出してもしょうがないし、 阪中自身が言いづらいから俺のところに頼みに来ているのだろうから、快く引き受けておいたがね。 「おまえな……たまにはクラス行事に参加しろよ。いつまでも腫れ物扱い状態で良いのか?」 「べっつに構わないわよ。気にしないし。大体、球技大会ってバレーボールじゃない。そんなありきたりのものに 参加したっておもしろくもないじゃん。南アルプスでビッグフット狩り競争!ってのなら、喜んで参加するわよ」 「そんな行事に参加するのはお前くらいだ。おまけに球技大会ですらねえよ」 俺のツッコミも無視して、良いこと思いついたという感じにあごをなでるハルヒ。 このままだと春休みにはアルプスに連れて行かれかねないな。 「あー、でも一般客も見に来たりするんだっけ? それなら、クラスじゃなくてSOS団としてなら参加して良いわよ。 いいアピールにもなるしね。ユニフォームのデザインはまっかせなさい!」 「勝手に変な方向に話を進めるな!」 俺の脳裏に、開会式にSOS団が殴り込みを掛ける映像が再生される。それも全員がハルヒサナダムシ風ユニフォームを着込んで いや、朝比奈さんだけは別か。何を着せられるのやら。ハルヒなら本気でやりかねないから冗談にもならん。 「やれやれ……」 難しいとは思っていたが、こうも脈がないとハルヒ参加は無理みたいだな。阪中には明日謝っておこう。 で、その後は古泉とのボードゲームを再開。夕方になって全員で帰宅モードへ移行。何気ないいつもの一日だった。 ただ、少し気になったのは部室内にいる間、少し様子のおかしかった長門だ。何かを問いかけられた訳でもないのに どうも数センチだけ頭を傾ける仕草を頻発していたのが少し気になっていたので、 「……長門。どうかしたのか?」 帰り道でハルヒに気づかれないように聞いてみる。長門はしばらく黙っていたが、 「情報統合思念体とのアクセスが不安定になっている。原因不明。私自身のエラーなのか、外部からの妨害なのかも不明」 「また、やっかいごとか?」 「回答できない。情報があまりに不足している。帰宅次第、調査を続行する」 「そうか」 俺は嫌な予感を覚えていた。特に長門自身のエラーということについて、つい敏感に反応してしまう。 あの別世界構築騒動の再来になりかねないからだ。 と、長門が俺に視線を向け続けていることに気が付く。そして、俺の不安を察知したのか、 「大丈夫。前回と同じ事にはならない。私がさせない」 きっぱりと言い切った言葉に俺はそれ以上不安を覚えることはなかった。 で、その後は夕飯を食って、部屋で適当にごろごろして、ベッドに潜り込んだ…… ◇◇◇◇ 『校舎と校庭の方にはたくさんの武器が置いてあります。自由に使って構いません。あと、本日午前6時までは何も起こりません。 では、がんばってください』 そこまで言うと、声が止まった。生徒達のひそひそ声がかすかに聞こえるようになる。 昨日のことを思い出してみたが、おかしかったのは長門の様子ぐらいだ。確かに、雪山でも長門の異常とともに、 あの洋館に押し込められたっけか。今回も同じと言うことなのか? 「やあ、あなたも来ていましたか」 考え事をしていたため、目の前のスマイル野郎の急速接近に気が付かなかったことが悔やまれる。 古泉の鼻息が頬にあたっちまったぜ、気色悪い。 俺は微妙な距離を取りつつ、 「ああ、本意どころか、夜中の学校に迷い込んだ憶えもないがな。お前も同じか?」 「ええ、気が付いたらここにいたという状態です。してやられましたね。油断していたわけではありませんが」 そう肩をすくめる古泉だ。ニヤケスマイルはいつも通りだが。 「キョン!」 「キョンくん~!」 「やっほー!」 と、今度は背後から聞いたことのある声が3連発だ。最初のがハルヒで次に朝比奈さん、最後は鶴屋さんだな。 振り返らなくてもわかるね。で、その中には長門もいると。 「全くなんなのよ、これ! 誰かのいたずらにしては大げさすぎない? 人がせっかく暖かい布団でぬくぬくしていたのにさ!」 そうまくし立て始めるハルヒ。こいつにとっては燃えるシチュエーションのはずだが、 寝ていたところをたたき起こされた気分のようで、すこぶる荒れているみたいだな。 「こ、これなんなんですかぁ~。どうしてあたし、学校の体育館にいるんですかぁ?」 涙目でおろおろするばかりの朝比奈さん。これはこれで……ってそんなことを考えている場合じゃない。 俺は即座にこの状況を唯一理解できそうな長門の元へ行く。 相変わらずの無表情状態だったが、少し曇った印象を受けるのは闇夜の所為ではないだろう。 「おい、長門。これは昨日言っていた異常の続きって奴か?」 「…………」 俺の問いかけに長門は答えなかった。もう一度同じ事を聞こうとして、彼女の肩をつかむと、 「情報統合思念体にアクセスができない」 長門はぽつりと言った。あの親玉にアクセスができない? となると、ますます雪山と同じ状況じゃないか。 「ちょっとちょっとキョン! 何こそこそやっているのよ! まさか有希をいじめているんじゃないでしょうね!」 人聞きの悪いことを言いながら俺に詰め寄るハルヒ。こんな状況でいじめる余裕がある奴がいるなら会ってみたいけどな。 そこに、古泉が割って入り、 「まあまあ。けんかをしている場合ではないでしょう。それにこれ以上、体育館にいても仕方ありません。 とりあえず、外に出てみませんか? どうやら、これをしくんだ者からのプレゼントもあるようですし」 「そうね」 ハルヒは素直に古泉の提案を受け入れ、体育館の出入り口に向かう。 「ひょっとしたら、辺り一面砂漠になっていたりして! なんだかワクワクしてきたわ!」 もうハルヒはこの状況を受け入れつつあるらしい。らしいといえばらしいが。 ふと気がつくと、今までひそひそ話をする程度だった他の生徒たちも俺たちについてくるように、 体育館の出入り口に向かって歩き始めていた。一様に不安そうな表情を浮かべているものの、 特に錯乱するような奴はいない。なんだ? おかしくないか? どうして誰も泣いたりわめいたりしない? 「気づいたようですね」 またニヤケ男が急接近だ。しかも、耳元に。吐息が当たって気色悪いんだよ! 「何がだ」 「他の生徒の様子ですよ。まるで落ち着いている。ちょっと動揺しているように見えますが、 表面上だけです。訓練された人間でもこうはいかないでしょう」 「そのようだな。でも、ひょっとしたらみんな肝が据わっているだけかもしれないぞ」 「それはありえません。あなたが初めて涼宮さんに絡んだことに出くわした時を思い出してみればわかるはずです。 しかも、ざっと見回す限り1学年のみの生徒がいるようですが、それでも数百名のうち一人も錯乱しないわけがありません」 「何が言いたい?」 「まだ結論を出すには早いですが、何らかの人格調整を受けたか、あるいは――」 古泉は強調するようにワンテンポおいて、 「姿形だけ同じで、中身は全然別物かもしれませんね」 そこまで言い終えた瞬間、俺たちは体育館から外に出た。 ◇◇◇◇ 「なに……これ」 呆然とハルヒがつぶやく。俺も同じだ。驚きを通り越してあきれてくるぞ、これは。 体育館から出てまず気がついたのは、武器の山だ。体育館の周りに所狭しと銃器が山積みになっていた。 俺は思わずそれを一つとり、 「M16A2か。状態も良さそうだ」 そう知りもしないはずなのにつぶやく。さらに安全装置などを調べている間に、俺ははっとして気がつく。 「なあ古泉。俺はいつからミリタリーマニアになったんだ?」 「さて、僕もあなたのそんな一面を今までみた覚えはありませんが」 古泉も同じようにM16A2を手慣れた感じに、チェックしている。当然だ。俺は映画以外では鉄砲なんて みたこともないし、ましてや撃ったこともない。さわったことすらない。しかし、なんだこの手慣れた感触は。 使い方、撃ち方、整備の仕方までどんどん頭の中に浮かんでくるぞ。どうなっているんだ一体! 「みてください。弾丸の詰まったマガジンも山積みです。どこかと戦争になっても一年は戦えそうですよ」 しばらく古泉は表情も変えずに古泉は武器の山を眺め回していたが、やがてそばにいた長門となにやら話し始めた。 「キョンあれ見てアレ!」 ハルヒが興奮気味に指したのは、校庭だ。そこには10門の火砲――120mm迫撃砲と、 一機のヘリコプター――UH-1が置かれている。って、やっぱりすらすら知りもしない知識が沸いて出てきやがる。 「なによこれ、いつから北高は軍事基地になったわけ?」 なぜか不満そうなハルヒ。あまりこっちのほうは好みではないのか? そんな中、朝比奈さんは不思議そうに無造作に並べれられている迫撃砲の砲弾を突っついている。 「うわ~、何ですかこれ? 初めて見ましたぁ~」 「こらみくる、さわると危ないよっ! 爆発するかもしれないんだかさっ!」 「ば、バクハツですかぁ!?」 びっくりして縮こまる朝比奈さんとおもしろそうにマガジンの山をつっついている鶴屋さん。まあ、鶴屋さんがいれば 大丈夫だろ。 「おい、これって俺たちに戦えってことじゃないのか?」 突然、聞き覚えのない声が飛んできた。さらに、 「さっき、体育館で聞いたじゃない。3日間生き残ればいいって。きっと敵が襲ってくるのよ!」 「おいおい、俺は殺されたくねえぞ」 「そうよそうよ! 徹底抗戦あるのみだわ!」 突然俺たち以外――SOS団に関わりのない生徒たちが盛り上がり始めた。そして、次々とM16A2を手に取り、 構えたり、チェックをはじめやがった。何なんだ、何だってんだ。どうして、誰も疑問に思ったり拒否反応を示したりしない? おまけに俺と同じように知っているかのように扱っている。 さらに、狂った状況が続く。 「でも、ばらばらに戦っていちゃだめだ! 指揮官がいるな!」 「そうね!」 「誰か適任はいないのか?」 「そうだ! 涼宮さんなら!」 とんでもないことを言い出す奴がいたもんだ。よりによってハルヒだと? 一体どんな奴がそんなばかげたことを言い出したんだと声の方に振り返ると、そこには文化祭でドラムをたたいていた ENOZのメンバーの一人がいた。 当のハルヒはきょとんとして、 「あ、あたし?」 そう自分を指さす。さすがのハルヒでも状況が理解できていないらしい。 「そうだよ! 涼宮ならきっと俺たちを導いてくれる!」 「お願い涼宮さん! 指揮官になって!」 「俺も頼む! おまえになら命を預けられる!」 『ハルヒ! ハルヒ!』 「ちょ、ちょっと待っててば!」 と、最初こそしどろもどろだったが、やがて始まったハルヒコールにだんだん気分がよくなってきたらしい。 だんだん得意げな顔つきになってきたぞ。 「ふ、ふふふふふふふふ」 ついには自信に満ちあふれた笑い声まで発し始めやがった。 「わかったわ! そこまで頼られちゃ仕方がないわね! このSOS団団長涼宮ハルヒが指揮官としてあんたたち全員を 守ってあげるわ! このあたしが指揮する以上、どーんと命を預けてもらっていいわよ! アーハッハッハッハ!」 そうやって生徒たちの中心で拳を振り上げるハルヒ。あまりの展開に頭痛がしてきたぞ。 額を抑えていると、長門と密談を終えたらしい古泉がまた俺に急接近してきて、 「大丈夫ですか?」 「ああ、今ひどい茶番を見た」 微妙な距離を保ちつつ答える。古泉はやや困ったように表情を変え、 「それには果てしなく同意しますね。しかし、この強引すぎる茶番劇でしくんだ者の大体目的が理解できました」 「頭痛が治まったら聞いてやる……ん?」 ふと俺の目に二人の生徒がこの茶番劇な流れに逆行するようにこっそりと移動しているのが入ってきた。いや、正確に言うと、 一人が逃げるように移動し、もう一人がそれを追いかけているみたいだ。まあ、思いっきり見覚えのある奴なんだが。 「まずいよ、勝手に逃げ出しちゃ」 「馬鹿言え! こんなばかげた催しに参加してたまるか! おまけに総大将が涼宮だと? 冗談じゃねえよ!」 「でも、なんだかおもしろそうだよ? すごいものがいっぱいあるし」 学校の塀を必死に上ろうとするが、どうしてもうまくいかない谷口。そして、それをやる気なく止めようとする国木田。 何というか、この意味不明空間に閉じこめられてから、初めて正常と思える人間にであったな。 「おい、何やってんだ谷口。それに国木田も」 そんな二人に向かって声をかけると、谷口の野郎がまるで鬼でも見るような目で、 「く、くるなキョン! いや、別におまえに恨みはないが、セットで涼宮がついてくるかもしれないからな! 今は見逃してくれ! 頼む! 明日弁当をおごってやるから!」 もう谷口は今にも泣き出しそうだ。まさに普通の反応。安心するどころか癒されるね。まさかアホの谷口に 癒しを求める日がこようとは。 「まあ、落ち着け。いや、落ち着かないほうがおかしいけどな」 「どっちだよ」 すねた表情で谷口が抗議する。俺ははいはいと手を振りながら、 「とにかく、逃げだってどうにもならんだろ。ここがどこなのかもわからんしな。それにさっきの超不親切放送を信じるんなら、 3日間学校に閉じこもっていれば、何もかも元通りとのことだ。それなら学校のどっかに隠れていた方がマシだろ」 「僕もそう思うよ。別に殺されると決まった訳じゃないし」 国木田がうなずいて俺に同意する。しかし、谷口は聞く耳も持たず、またロッククライミングを再開して、 「うるせえ! そんなの信用できるか! とにかく俺は逃げる! 誰も知らないところで隠れて3日間逃げ切ってやるからな!」 わめきながら谷口はようやく塀を乗り越えようとした瞬間―― 「うわわわわわっ!」 情けない悲鳴を上げて、背中から落下する。 咳き込む谷口の背中をさする国木田を背に、俺もとりあえず塀を上ってみる。一応何があるのか確認しておきたいからな。 「……なんてこった」 塀を乗り越えた俺の目に広がったのは、絶望的に広がった暗闇だ。夜だからではない。学校の塀が断崖絶壁になり、 それよりも向こう側には何もなかった。崖のそこは暗く何も見えない。まさに底なしだ。落ちたらどうなるのか。 試してみたい気もするがやめておこう。 「畜生……なんてこんな目に……」 すっかり逃げる気も失せた谷口は、肩を落として地面に座り込んでいた。一方の国木田はいつものまま。 マイペースな奴だ。 俺はとりあえずハルヒの元に戻ることにした。谷口ももう逃げようとはしないだろうし、あとは国木田にでも任しておけばいい。 しかし、体育館入り口に戻った俺はさらに驚愕する羽目になった。 「ほらほらー! 時間がないんだからちゃっちゃと運びなさぁい! そこ! それ落としたら爆発するかもしれないから、 慎重に扱ってね! さあビシバシ行くわよ!」 校庭のど真ん中にたったハルヒが、メガホン片手に生徒たちを動かしていた。そこら中に散らばっている銃器や砲弾を 学校の校舎内や体育館に運び込ませさているらしい。実際、野ざらしだとどんなはずみで暴発するかわからんから、 ハルヒの判断は間違ってはいないが、すっかり指揮官なりきり状態にはいささか不安を覚える俺だった。 ◇◇◇◇ 「さて! じゃあ、SOS団ミーティングを始めるわよ!」 ハルヒの威勢のいい声が部室内に広がる。最初のとまどいもどこにやら、完全にいつものペースに戻っているようだ。 おまけに総大将とかかれた腕章まで着けている。すっかりその気になっているみたいだな。 全生徒総出での片づけがようやく終了して、現在午前4時の部室内にいるのは、 SOS団のメンバー+鶴屋さんの総勢6名である。 総大将ハルヒはどうやらSOS団関係者を中心としてこの事態を乗り切るつもりらしい。 「とにかく、このよくわかんない状況をとっとと終わらす必要があるわね! さっき体育館でなんて言っていたっけ? 古泉君」 「3日間一人でも生き残れば、その間にあったことすべてが無効となって、元の世界に戻ることができる。 しかし、全員死んでしまった場合はこの3日間の間に起こったことがすべて事実になる。ということのようでした。 あと、午前六時――あと一時間後までは何も起きないとも言っていましたね。それに我々以外の人間は存在せず、 助けを求めようとしても無駄だとも」 さわやかに答える古泉。ハルヒは満足げにうなずき、 「そう! それよ! さすが古泉君ね!」 なにが、さすが古泉なのかわからんが、そんなことはどうでもいい。 「おい、ハルヒ。ちゃんと状況を理解しているのか? 体育館で一方的に言われた内容だと、これから俺たちは 命をねらわれるということになるんだぞ。いつもの不思議探検ツアー気分でやっているんじゃないだろうな?」 「わかっているわよ、そんなこと」 当然だとハルヒ。さらに続ける。 「まあ、いつもならこんな訳のわからない超常現象に遭遇してワクワクしているかもしれないけど、 はっきりいってシチュエーションが気にくわないわ。仕掛けてきたのが宇宙人なのか未来人なのか異世界人なのか 知らないけどこんな不愉快な接触をしてくるなんてナンセンスすぎ! 説教の一つでもしてやらないと!」 これでハルヒが望んだからこんなけったいなことに巻き込まれたというのはなしだな。 ますます雪山の一件と同じになってきた。 ハルヒは仕切り直しというようにわざとらしく咳き込んで、 「まず、これからどうするかよね。有希、何か良い意見ある?」 何で真っ先に長門に聞くんだ。確かに一番適任かもしれないけどな。 話を振られた長門は、数センチ頭を傾ける動作をしたまま無言だった。 ハルヒはそれをわからないというポーズと受け取ったようで 「そっか、有希に聞いても仕方ないわね。じゃあ、古泉君は?」 今度は古泉に話を振るが、それに割り込むように鶴屋さんが大きく手を挙げ、 「はーい! やっぱさ、ここは偵察所を兼ねた前線基地を作ったほうがいいと思うねっ! 話を聞く限りだともうすぐこの学校は何かにおそわれるってことだけど、いきなり本拠地である学校への 襲撃を許したらまずいと思うんだっ! だから、少しでも敵を学校から引き離すためにさっ!」 「すばらしいわ、鶴屋さん! それ採用よ!」 はい、あっさりと終了。何気に息がぴったりな二人だな。しかも、鶴屋さん。 そんなことをすぐに思いつけるなんて、いくら名家の人とはいえこういった戦闘的な経験はあったりしませんよね? 話を振られようとしていた古泉も珍しく苦笑いを浮かべつつ、 「僕も賛成です。このままじっとしているだけでは、敵に叩かれるだけでしょうね」 俺はちらっと長門の方を見るが、相変わらずの無表情だった。とりあえず、口を開かないと言うことは 同意しているととっておくことにしよう。 俺も特に異論もないので、鶴屋さん案に同意する。 「なら決まりね! じゃあ、早速作戦を立てましょ」 そう言ってハルヒが机に広げたのは学校周辺の地図である。ただし、北高のすぐ左側を縦に黒いライン、また同じように 北高の敷地の南側に沿うようにも同じようにラインが引かれている。さっき谷口が腰を抜かした断崖絶壁を 表しているラインであり、屋上から確認したところ、北高より西側と南側はまるで何かに切り取られたように なくなっていた。よって、敵が襲ってくるなら北高よりも北西となる。 さて、こんな地理関係でどこに前線基地をつくればいいのかと考えてみる。というよりも敵がどこから襲ってくるのか 予測しなければ、前線基地の意味もないのでそっちが先決だな。 「北高の北側は住宅街です。見通しがききづらいので、民家を陰に接近されやすいでしょう。東側は森がありますが 幸い校庭に面しているため、即刻学校にとりつかれることはありません。校庭に侵入を確認した時点で 迎撃することが可能かと」 「なら北側しかないわね。でも、どこにするのがいいのかしら」 古泉の意見を取り入れつつ、ハルヒは北高の北側一帯を指でなぞる。そんな中、ちらちらとハルヒが目をやっているのは、 北山公園だ。そこそこ広範囲な森で隠れるならうってつけの場所だろう。 「そうなると、ここが最適じゃない?」 ハルヒが赤いサインペンで丸をつけたのは、北側に東西に延びるようにたてられているサンハイツと呼ばれる建物だ。 良い感じに北高をカバーする防壁のように立ち並んでいる。 「問題ないと思うよっ! ここなら建物沿いに学校へ移動してきてもすぐに発見できるんじゃないかなっ。学校からも すごく近いし、移動も簡単だと思うよっ!」 鶴屋さんが賛同するんで、俺も適当に賛同しておく。こういった頭を使うものは俺なんかよりもハルヒたちに任せておけばいい。 「ちょっとキョン! さっきから他人の意見ばっかりにハイハイしたがってないで、自分の意見を言ったら!?」 いつも人の意見を聞かないくせに、こんな時ばかり聞かないでくれ。どのみち、ハルヒや鶴屋さん以上の意見なんて 全く思いつかないんだからな。 「……まあ、いいわ。じゃあ、これで前線基地は決まりね! 次はお待ちかねのみんなの役割を発表するわよ!」 何がお待ちかねだ。一番胃が痛くなるやつじゃねえか。こいつが決めた物は大抵ろくな配分になっていないからな。 とくに俺と朝比奈さんは。 ハルヒは満面の笑みを浮かべて、懐から一枚のメモを取り出して机に広げた。 ● 総指揮官 涼宮ハルヒ(もちろん、すべての作戦を統括する一番偉い人!) ● 副指揮官 長門有希 (戦況を判断して的確に指示を出すSOS団のブレーン) ● 小隊長 古泉君 (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) ● 小隊長 鶴屋さん (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) ● 小隊長 キョン (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人) 以上、これがメモかかれていたことである。総指揮官、副指揮官ときて次に小隊長かよ。階級差が飛びすぎだろ。 それになんか俺が前線で戦う人にされているし。 不満そうにしている俺に気がついたのか、ハルヒはしかめっ面で、 「何よ。 なんか不満でもあるわけ? いっとくけど、総指揮官であるあたしの命令は絶対よ! ハートマン軍曹より 厳しいからそのつもりで!」 放送禁止用語を連発するハルヒを想像してしまって吹き出しそうになるが、あわてて飲み込む。 「完全に数えた訳じゃないけど、体育館にいたのは一学年全員ぐらいはいたわ。となるとざっと数えて270人がいるわけ。 幸いみんな協力的だから、戦力として数えられるわけよ。で、そのうち5割を戦闘員として、キョンたちが指揮して、 残りは補給とか片づけとかの役割に回すわ」 続けるハルヒに少し安堵感を覚えた。さすがにSOS団VSコンピ研の対決の時のように突撃馬鹿になるつもりはないようだ。 ところでだ、メモ最後にかかれているのはいったい何だ? 「あのぅ……わたしは一体何をするんでしょうかぁ? 癒し系担当とかかかれているんですけどぉ……」 おそるおそる手を挙げて質問する朝比奈さん。メモには、 ● 癒し系担当 みくるちゃん (みんなを癒す係) とだけかかれている。確かにこれだけでは一体何をするのかさっぱりわからないな。 「それにみなさんは戦闘服なのに、なんでなんでわたしだけはナース服なんですかぁ?」 朝比奈さんの発言で思い出した。言い忘れていたが、今朝比奈さん以外の面々はみんなウッドスタイルな迷彩服を着込んでいる。 おまけに実弾入りの小銃のマガジンやら必要な物をすべて身につけ、肩には銃器を抱えていた。 これはとある教室に押し込まれていたものだったが、ハルヒ曰く、せっかくあるんだから使わないと損、と言って 男女問わず生徒たちに身につけるように指示を出した。むろん、俺たちSOS団+1も例外ではない。 おかげで全身が重くてたまらん。だが、それにすら慣れという感覚を感じてしまっている。 で、そんな中、朝比奈さんだけがナース服という状態だから、端から見るとコスプレ軍団が密談をしているようにしか見えんだろ。 「みくるちゃんは、その格好で歩いているだけでいいわ。それだけでみんな癒されるはずよ。 それに戦闘中に歩き回られても邪魔なだけだし」 ハルヒ、それは違うぞ。朝比奈さんはそんなけったいな衣装を着込まなくても十分癒しを提供してくれるんだ。 見てくれを気にしすぎるおまえには一生わからんだろうがな。 「じゃ、これで役割分担は終わり。さっそく実行に移しましょう」 「おい! これだけで終わりかよ!」 思わずハルヒに抗議の声を上げる。たとえばだ、俺が小隊長にされているが、分隊はどうするのかとか、 各装備はどうするのかとか―― 「そんなことは分隊長であるあんたが決めなさいよ。古泉くんと鶴屋さんも。あ、学校内の態勢とかはあたしと有希で決めるわ」 細かいところはやっぱり適当だな、おい。まあいいか、ハルヒにどうこういじられるよりかは、 俺が直接やった方が自由がききそうだ。やったこともない知識が頭の中にすり込まれているせいか、 どうすればいいかは大体わかるしな。 「さて……」 ハルヒは忘れ物はないかとしばらく考えていたが、 「ちょっと顔を洗ってくる」 そういって早足で部室から出て行った。いつもよりも落ち着きのない足取りからガラにもなく緊張しているのか? と、鶴屋さんと朝比奈さんもハルヒに続くように、 「あっ、あたしも行くよっ!」 「わたしも行きます~」 そう言って部室から出て行った。ただし、鶴屋さんは俺にウインクをして。どうやら気を遣ってくれたらしい。 まあ、せっかくのご厚意だ。今のうちに聞いておけることは聞いておこうか。 「おい古泉。もう頭痛も治まったから、さっきの続きを言っても良いぞ。ただしハルヒたちが戻るまでだから手短に頼む」 古泉は待ってましたといつもの解説口調で説明を始める。 「この閉鎖空間に近いような空間――わかりやすく疑似閉鎖空間と呼びましょう。これはあきらかに涼宮さんが作り出した物では ありません。現に神人も現れず、また僕の能力も使えるようになっていない。となれば、別の何者かがこの空間を作り出し、 我々をそこに押し込んだと推測できます」 「それは俺でも予想ができたな。雪山の時と一緒だろ」 「ええ、その通りです。あと、疑似閉鎖空間を作った者の目的ですが、おそらく涼宮さんを追い込んだ状況に 陥らせて彼女の能力を使った何らかのアクションが起きることを期待しているのかと」 「何を期待しているんだ?」 古泉は首を振りながら、 「残念ながらそこまでは推測できません。情報が不足しすぎていますしね。しかし、涼宮さんに強烈な負荷をかけて 彼女の精神状態を乱すことが目的なのか確実です」 「それにしては、状況が甘すぎるんじゃないか? 不親切とはいえ状況説明をしたあげく、わざわざ武器まで渡している。 おまけに学校の生徒をハルヒの言うことを聞くようにして、俺たちにも軍人並みの知識と経験もすり込んでいるしな。 いっそ、生徒全員、あるいはSOS団メンバーだけで殺し合いをするようにすれば、さすがのハルヒでも おかしくなるだろうよ。そんなのはまっぴらごめんだがね」 「それでは、涼宮ハルヒがこの状況そのものを否定する可能性がある」 そこで割り込むように口を開いたのは長門だった。そういや、体育館以来声を聞いていなかったな。 「長門さんの言うとおりです。それでは涼宮さんは疑似閉鎖空間そのものを破壊してしまうでしょうね。 彼女の能力を持ってすれば簡単な話です。それをさけるためには、一定レベルで涼宮さんがこの疑似閉鎖空間の状況、 つまりこの仕組まれた展開を受け入れなければなりません。先ほどの茶番劇も涼宮さんに対して、 今この学校内にいる全生徒が自分を信頼してくれているという暗示をかけたようなものでしょう。 涼宮さんの性格からあそこまで持ち上げられると乗ってくるでしょうし、何よりも不満があるとはいえ、 彼女にとっては今まで味わえなかった奇怪なシチュエーションです。今のところ、この状況そのものを 否定するような要素は存在しません。完全に仕組んだ者の思惑通りに進んでいると思います。今のところ、はですが」 なるほどな。確かにあいつが興奮気味なのは見てりゃわかる。しかし、それが敵と言える奴らの思惑なら 腹立たしいことこの上ない。 と、俺は学校から逃げだそうとしていた谷口――とおまけで国木田――を思い出し、 「だが、妙なこともあるぞ。確かにここにいる大半の生徒たちはハルヒに従うように人格を調整されているみたいだが、 俺たちSOS団のメンバーや鶴屋さんはどうなる? 確かに軍事知識と経験は頭の中にねじ込まれているみたいだが、 ハルヒに盲目に従うようにはなっていないぞ。谷口に至ってはハルヒが総大将になったとたん、 学校から逃走しようとしたぐらいだ」 「その通り。SOS団や涼宮さんに関わりの強い人間は、人格調整的なものまでは受けていないようですね。 しかし、これからもわかることがあります。涼宮さんに従うようにされている生徒たちは、はっきりと言ってしまえば、 捨て駒のようなものであり、使いたいときに使える道具とされている。あ、とはいっても本当にロボットのように なっているかと言えばそうではありません。9組の何人かと話をしてみましたが、性格的なものは普段のままでした。 あくまでもベースは個人の人格を踏襲しつつ、涼宮さんと関わる際にその指示に必ず従うよう 何らかの暗示のようなものをかけているのかもしれません。 本題は涼宮さんに近い人間を通じて彼女に負荷をかけるということです。 しかし、僕たちがあまりにいつもと違う言動を行えばリアリティを損ない、 涼宮さんが姿形は同じな別人であると認識しかねません。それでは負荷も半減するというものです」 つまり、普段のままの俺たちがどうこうなることで、ハルヒに衝撃を与えようとしているって訳か。 俺を殺してハルヒの反応を見るとかいっていた朝倉の仕業じゃないかと疑いたくなるぜ。 「ん? となるとハルヒ自身には何も操作が行われていないってことか? にしちゃ、武器の扱いも 手慣れているように見えたが」 「涼宮さんは文武両道、しかも何でもそつなくこなせる非常に優れた方です。そのくらいできても不思議ではありません。 あるいは、涼宮さん自身がそう望んだからかもしれませんが。どちらにしろ、今までの推測から涼宮さんの能力には 制限がかけられていないと考えられます。僕や長門さんとは違ってね」 古泉は困りましたねと言わんばかりに肩をすくめる。そういや、長門は昨日から異常を察知していたようだが…… 「古泉はともかく長門もそうなのか?」 「現在のところ、情報統合思念体にはまったくアクセスできない。また、わたしの情報操作能力も完全に封鎖され、 今ではあなたと大して変わらない」 ここぞと言うときにはどうしても長門に頼ってしまうのが悪い癖だと思っているが、 今回は頼ることすらできないと言うことか。しかし、それでも普段と同じ無表情を貫いているのは、 ただ緊張や不安という感情を持ち合わせていないためか、それとも見せないようにしているか。 以前みたいに脱出のためのヒントも期待できないだろう。どうすりゃいいんだ。 「我々からこの状況を同行できる状態ではありません。今は仕組んだ者の思惑に乗るしかないでしょう。今はね」 古泉の言うとおり、どうにかする手段どころか手がかりすらない。腹立たしいが、今はこのバカみたいな展開を 乗り切ることを考えるか。 ふと、長門がじっと俺を見たまま動かないことに気がつく。表情もそぶりもいつものままだが、 俺は何かの感情を込めたオーラのようなものがこっちに向けられていることをひしひしと感じる。 「取り返しのつかない失態。すまないと思っている」 長門は慣れない単語を口に出そうとしているためか、口調がぎこちなかった。だが、 「今のわたしにはあなたを守ることができない」 彼女の意志だけはこれ以上ないと言うほどに伝わった。 ◇◇◇◇ 『あー。テストテスト』 時刻は午前5時半。場所は校庭、俺たちは朝礼台の上でトランジスターメガホンのマイクテストを行う 総大将涼宮ハルヒに向かって、現在朝礼のように全生徒が整列して並んでいる。あと30分ほどで何かが始まるということだ。 ちなみに、並び順はハルヒから向かって右側に戦闘部隊――つまり俺や古泉、鶴屋さんがいる。生徒たちはハルヒだけじゃなく、 どうやらSOS団に深い関わりを持つ人間の言うことには素直に従うように調整されているらしい。さくさくと 1-5組を中心に30人をかき集めて小隊の編成をくみ上げて、こうやって整列している。なんだかんだで谷口と国木田も 俺の小隊に入った。他の二人も同様に編成を終えている。細かい編成内容を説明するのは勘弁してくれ。 無理やり詰め込まれた知識を披露するようなもんで、大変腹立たしいからノーコメントとさせてもらうぞ。 向かって左側にはそれ以外の生徒だ。長門はこっちのグループに入っている。で、なぜか朝比奈さんだけはハルヒのいる 朝礼台の上と来たもんだ。衆目の目前に景気づけにとんでもないことをやらされそうになったら一目散に飛び出すつもりである。 『えー、皆さん!』 準備が整ったのか、ハルヒがトランジスターメガホン片手にしゃべり始めた。 『はっきり言ってなんかよくわかんない状況だけど、あたしについてくれば大丈夫! どっどーんとついてきなさぁい!』 あまりの言いように俺は肩を落としてしまった。もう少し言うことがあるだろうに。誰も見捨てないとか、 みんなで乗り越えようとか。ハルヒらしいといえばそれまでなんだが。 『んで、とりあえず作戦なんだけど、北高の北側に前線基地を作ります。そこの担当は鶴屋さんね! よろしく!」 突然の指名に一瞬きょとんとする鶴屋さんだったが、やがていつもの笑顔に戻り、 「へっ? あたし? りょーかいっ!」 おい、そんなことは初めて聞かされたぞ。前もって言っておけよな。そして、鶴屋さん。それを少しも動じずに 受け入れられるあなたは大物すぎます。 『他の人たちは適当に学校周辺を見張って。特に校庭側に注意すること! 今のところは以上!』 適当すぎる。今からでも遅くない。とっつかまえて再考させるべきではないだろうか。 「すがすがしいほどに簡潔でわかりやすいじゃないですか」 相変わらずのイエスマンぶりを発揮する古泉。もはやつっこみも反論する気にもならん。 『じゃあ、最後に癒し担当のみくるちゃんに、激励の言葉をお願いするわ!』 そう言ってトランジスターメガホンを手渡された朝比奈さんはただおろおろするばかり。 しばらく、ハルヒと言葉を交わしていたが、結局いつものように観念したのか、朝礼台の前に立った。 『ええーと、あのーですね……』 「みくるちゃん! そんな覇気のない声じゃ激励になんないでしょ!」 メガホンなしでもハルヒの声が聞こえてきた。朝比奈さんが不憫すぎる。今すぐにでも助けに行くべきか? しかし、俺が考えている間に朝比奈さんは決意したようで、 『みっみなさーん! がんばってくださーい! 一緒にかえりまひょー!』 その声に全生徒が一斉に腕を上げておー!と答える。ちなみに、男子生徒はやたらと張り切って手を挙げているのに対して、 女子生徒はいまいちやる気なく手を挙げているのは俺の偏見にすぎないのだろうか? ハルヒはとっとと役割を終えた朝比奈さんからトランジスターメガホンを奪い取り、 『よーし! じゃあ、張り切って作戦開始!』 黄色い叫び声が飛んだと当時に、並んでいた生徒たちの整列が解け、それぞれの持ち場に移動を開始した。 やれやれ、これからが本当の地獄だろうな。 と、俺の小隊の連中がぞろぞろと周囲に集まり始めていた。どうやら、俺の指示を待っているらしい。 そんなとき、学校から出て行こうとする鶴屋さんの姿が目に入る。俺は彼女の元に駆け寄り、 「すいません鶴屋さん、ハルヒの奴が勝手なことばかり言って。本来なら俺か古泉が行くべきなんでしょうけど」 「んー? いいよっ、別にさっ! 言い出しっぺはあたしだからちょうどいいよっ!」 変わらずハイテンションだな。ハルヒといい勝負かもしれん。 「じゃっ、あたしは行くよっ! みくるによろしくって言っておいてっ! じゃあ、またねーっ!」 まくし立てるように言ってから鶴屋さんは学校から小隊を引き連れて出て行った。無事を祈ります、鶴屋さん。 「キョンくーん!」 続いて一歩遅れて俺の元にやって来たのは朝比奈さんだ。ああ、そんな息を切らせて走ってこなくても。 呼んでくだされば、たとえ地球の裏からでも馳せ参じますから。 朝比奈さんは呼吸を整えるようにいったんふーっと息を吐き出すと、 「つ、鶴屋さんはもう言っちゃいましたか?」 「ええ、たった今。朝比奈さんによろしくって言っていましたよ」 何か伝えたいことでもあったのだろうか。残念そうな表情を見せる朝比奈さんだった。 「しかし、すごい人ですね。こんな状況だってのに全くいつものペースを乱していないんですから。 俺もあの度胸を少しだけ譲ってほしいかも」 「そんなことないです!」 俺の言葉を即刻否定されてしまった。見れば、普段とは違ったまじめな顔をした朝比奈さんがいる。 「そんなことはありません。鶴屋さんはこの事態を深刻に受け止めているんです。だって……」 朝比奈さんは強調するようにワンテンポをいてから、 「だって、鶴屋さん、ここに来てから一度も笑っていないんです。いつもは少しでも楽しいことがあればすぐに……」 言われてからはっと気がついたね。確かに口調とハイテンションぶりは変わっていなかったが、 一度も笑っていない。いつもあんなに心底楽しそうに笑う人なのに。 「すみません。俺がうかつでした。そうですよね、あの人なりにやっぱり考えることも当然あるでしょうし」 「いいいいえ、別にキョンくんを責めた訳じゃないんですよっ。ただ、鶴屋さんも真剣になっていると わかってほしかっただけなんです」 「それはもう、心の底から理解していますよ」 とまあ、なんだかんだで良い感じになっていた俺たちな訳だが、それをぶちこわす奴が登場だ。 「あ、朝比奈さん! どうも! 谷口でっす!」 おーおー、鼻の下をのばしきった下心丸出しのアホが登場だ。せっかく良い感じだったってのに。 「谷口さんですね。覚えています。映画撮影と文化祭の時はどうも」 丁寧にお辞儀をする朝比奈さんだが、そんな奴にかしこまる必要はありませんよ。顔にスケベと書かれているし。 そこで谷口は突然襟を正し始め、少し不安げな表情になる。そして、ねらい澄ましたような口調で、 「朝比奈さん。実は俺、怖くてたまらないんです。こんな世界に押し込まれてこの先どうなるかもわからない。 だから、せめてあなたの胸で抱擁させていただければ、この不安も少しは解消されて――ぶっ!」 「小隊長命令だ。とっとと朝比奈さんから離れろ」 堂々とセクハラしますよ宣言をしやがった谷口の襟をつかんで、俺のエンジェルから引きはがす。 一瞬息が詰まったのか、谷口は咳き込みながら、 「キョン! なにしやがる!?」 「うるせえ。小隊長命令が聞けないなら、キルゴア中佐命令まで格上げしてサーフィンさせるぞ。当然銃弾が飛び交う中でだ」 「職権乱用だ! 大体、サーフィンってどこでやるんだよ!」 なんてしつこく抗議の声を上げているが完全無視だ。幸い国木田が仲裁に入って、アホをなだめているので、 「ささ、朝比奈さん、ここには野獣がいますから戻った方が良いです」 「あ、はい……」 そう言って彼女は内股走りで去っていった。やれやれ、下劣な侵略を阻止したってことで俺の任務は終了にしてくれんかね。 谷口はまだ何か言って見るみたいだが、完全に無視。で、次にやることはっと…… 「……何をすれば良いんだ?」 俺はハルヒが引っ張り回している120mm迫撃砲を見ながら考え込んでしまった。 ◇◇◇◇ とりあえず、俺は東側からの襲撃に備えて校庭を警備していた。むろん、自分の小隊を引き連れて。 現在午前7時半――日数の期限があるからこういった方が良いか。1日目午前7時半である。 今のところ、全く異常はない。無事にサンハイツに陣を張った鶴屋さんの方にもそれらしいものはないらしい。 と、通信機を持たせているクラスメイトの阪中が、 「涼宮さんから連絡なのね」 そう言って無線機を差し出してきた。すぐ近くにいるのに、わざわざ無線で連絡しなくても。 俺はそれを受け取って――とハルヒと話すのは一時停止だ。 「阪中、すまないがこないだの球技大会の話なんだが……」 「……球技大会?」 何のことかわからないと首をかしげる阪中。覚えていないのか。いや、それともこの阪中は そんな記憶すら存在していないのか。ま、どっちでもいいか。 「いや、何でもない」 そう言って無線機を取る。 『あーあーあー、キョン聞こえる?』 「なんだハルヒ。こっちは特に異常はないぞ」 『オーケーオーケー。平穏無事が一番だわ。前線基地構築に敵もびびったのかしらね! このまま、何もしてこなければ良いんだけど』 相変わらずのポジティブ思考だ。そうなってくれることに越したことはないが。 だが、これを仕掛けた奴もそんなに甘くはない。突然、どこからともなくパーンパーンと 乾いた発砲音が耳に飛び込んできた。やがて、すさまじい連続発射音が鳴り響き始める。 「おい、キョン! なんだなんだ!」 至極冷静な小隊の中で、さっそくあわて始めたのは谷口だ。これが普通の反応なんだろうけどな。 「ハルヒ! 何が起こっている!?」 『鶴屋さんの方に攻撃があったのよ! 今わかっているのはそれだけ! 詳しくわかったらまた連絡するから、 そっちも警戒を怠らないで! オーバー!』 そこで無線終了。ちっ、早速戦闘かよ。鶴屋さんは無事なんだろうか? 俺は校庭の東側に対して警戒を強めるように支持をする。ほとんどの生徒は素直に従うが、 谷口だけはびびっておろおろするばかり。M60なんてデカ物を構えているのは、恐怖心の裏返しなのかもな。 激しい銃声音が響いたのは5分程度だろうか。やがて、それも収まり、辺り一帯に静寂が訪れる。 結局、学校東側からの攻撃もなかったな。 また、阪中が俺に無線機を差し出してきた。ハルヒからの連絡らしい。 『鶴屋さんの方は終わったみたいよ。けが人もなくあっさり撃退したんだって! さっすが、鶴屋さんよね。 SOS団名誉顧問なだけあるわ!』 SOS団は関係ないだろうが、あの人ならこのくらいは平然とやってのけそうだ。 『で、そのまま北山公園の方に逃げていったんだってさ。大体、20人ぐらいが襲ってきたらしいけど』 「20人? なら攻撃してきたのは人間なのか?」 『うーん、それがいまいちはっきりしないのよね。鶴屋さん曰く、人の形を何かが銃やらロケット砲やら抱えてきて 襲ってきたんだってさ。形は人間らしいけど、全身真っ黒でまるでシェルエットみたいな連中らしいわよ。 何人か倒したらしいけど、銃弾が命中すると昔のゲームみたいに飛び散ってなくなっちゃんだって』 なるほどね。ゲームだと思っていたが、本当にゲームの敵みたいな奴が襲ってくるのか。 じゃあ、俺が撃たれても大して痛くないのかもしれないな。それは助かる。 「これからどうするんだ?」 『ん、とりあえず、現状維持で。このまま、3日間学校を守りきるわよ!』 そこで通信終了。すぐさま、阪中に鶴屋さんに連絡を取るように指示する。 『やっほーっ! キョンくん、なんか用かいっ?』 いつもと同じ調子なお陰でほっとするよ。 「鶴屋さん、なんか大変だったみたいだけど大丈夫ですか?」 『へーきへーき! もうみんなそろってぴんぴんしているよっ!』 「そうですか……それはよかった――」 と、そこで鶴屋さんの声のトーンが少し変わるのに気がついた。いや、しゃべってはいないんだが、 息づかいというかなんというか…… 『んーと、おろろっ? なんだあれ――』 いやな予感が走る。なんだ…… 『――伏せてっ!』 無線機から飛び出したのは、今まで聞いたことのないような鶴屋さんの声だった。 恐ろしく緊迫し、驚いているのが表情を見なくても簡単にわかる。 次の瞬間、北高校舎の西側3階で大爆発が起こった。衝撃と音で全身がふるえ、鼓膜が破れるぐらいに 圧迫される。 「みんな伏せろ! とっとと伏せるんだ!」 俺は小隊の仲間をすべて地面に伏せさせた。とはいっても、見通しがよく物陰のない校庭では どのくらい効果があるのかわからないが、呆然と立っているよりも安全なはずだ。 そんな中、阪中は愚直に俺のそばにつき、無線で連絡が取れるような状態にしていた。 本来の彼女ではないのだろうが、こう忠実なのは今ではかえってありがたい。 「鶴屋さん! 何が起きているんですか!?』 『北高に向けて何かが飛んでいっているっさ! まだまだそっちに行くよ! ハルにゃんと連絡を取りたいから、 いったん通信終了っ!』 無線が終了して、阪中に無線機を返す。冗談じゃねえ、敵はミサイルかロケット弾か何かを 北高に向けて撃ってきているってのか!? 反則だろ! 反撃のしようがねえじゃねえか! さらに続けざまに2発が校舎側に直撃し、さらに一発が俺たちの目前に広がる校庭の東側に落ちた。 轟音で地面全体が振動している。 そんな中、器用に匍匐前進で谷口が近づいてきて、 「おいキョン! このまま、ここにいたらやべえぞ!」 「言われんでもわかっているさ!」 やばいのは重々承知だ。しかし、校舎側にも激しい攻撃――また3発が校舎に直撃した――が加えられている。 あっちに逃げても状況が変わらない上、人口密度が増えてかえって危険だ。なら、いっそのこと、 北高敷地外に出るか? いや、あわてふためいて逃げ出したところを敵に襲撃されたらひとたまりもない。 案外、学校周辺に敵が潜んでいて、俺たちが北高から飛び出すのを待っているかもな。校庭に塹壕でも 掘っておくんだったぜ。 どうするべきかつらつら考えていていたが、ふと気がつく。さっきの校舎に直撃した3発以降、 北高に何も攻撃が加えられていない。収まったのか? 俺は全員に伏せるように指示し――ついでに東側から敵が襲ってきたら遠慮なく撃てとも―― 俺自身は校舎に小走りに向かった。 ◇◇◇◇ 学校は凄惨な状況だった。学校の外壁には穴が開き、衝撃で校舎の窓ガラスがかなり割れてしまっている。 負傷者も出たようで、担がれて運ばれていく生徒もちらほらと見かけた。 と、状況確認のためか走り回っていたハルヒが俺に気がつき、 「キョン! よかった無事だったんだ!」 「ああ、おかげさまでな。俺の部隊も全員無事だ。負傷者もない。しかし、こっちは手ひどくやられたな」 「うん……。幸い、重傷者はでていないけど、窓ガラスの破片で数人が怪我をしたわ。今、みくるちゃんが手当してる」 朝比奈さんが看病? 当然膝枕の上だろうな? なんだか無性に負傷してきたくなったぞ。 「なに鼻の下のばしているのよ、このスケベ」 じと目で下心を見破るハルヒ。こういうことだけはほんとに鋭い奴だ。 「で、これからどうするんだ? このままだと、またさっきの奴が飛んでくるぞ」 「わかっているわよそんなこと」 ハルヒはあごの手を当て考え始めた。と、すぐそばを負傷した生徒が抱えられていった。 顔面に傷を負ったのか、激しい出血が迷彩服に垂れかかり、別の色に染め上げつつあった。 「状況は一変したわ。作戦の練り直しが必要だと思う」 ハルヒが取った行動は、SOS団メンバーを集めてミーティングを開くことだった。 さすがのこいつでも一人では決めかねるらしい。独断で何でも決められるのよりは何十倍もマシだが。 のんきに部室に戻るわけにも行かず、昇降口前での緊急会議だ。 ただし、鶴屋さんだけは前線基地から動けないので、無線越しである。 さらに朝比奈さんは負傷者の救護で手一杯らしく不参加。手当を求める『男子生徒』の長蛇の列を捌いているとのこと。 絶対に負傷していない奴も混じっているだろ、それは。 「最初に前線基地が攻撃されたかと思えば、今度は遠距離からの攻撃ですか。敵もいろいろと考えているようですね」 感心するように古泉はうなずいているが、そんな場合じゃないだろ。 さっきは十発程度で終わってくれたが、次はこれ以上かもしれない。校舎の被害は大きいが、 本当に幸いだったのは、砲弾やらなんやらが置かれているところに直撃しなかったことだ。 万一、誘爆なんていう事態になれば、どれだけの犠牲者が出たかわからん。 さすがのハルヒもまいってしまっているのか、いつものような覇気が50%カット状態だ。 真剣に考えてくれるのはありがたいけどな。 「このままじゃまずいわね。何とか反攻作戦を練らないとね。 有希、さっきのミサイルみたいな奴がどこから撃たれたか、わかった?」 「この建物の北東に位置している北山公園の南部。屋上で周辺を監視していた人間から確認した。 ただし、具体的な場所までは不明。範囲が広いため、砲撃による反撃を行っても効果は薄い。 かりに砲撃で向こうと撃ち合っても勝てる可能性はきわめて低い」 的確な答えを出す長門だ。宇宙人パワーを失っても、長門本人の能力は失われていないらしい。頼りになるぜ。 「なるほどね。鶴屋さん、さっきそっちを襲った連中も北山公園に逃げ込んだのよね?」 『そうにょろよっ! でも、公園の北側に逃げていったように見えたっさ!』 ん? 鶴屋さんの言うことが本当なら、前線基地を襲った連中が学校へロケット弾やらミサイルでの 攻撃をした訳じゃないってことか? 「でも、簡単よ! 敵は北山公園にあり! だったら、こっちから出向いて北山公園全部を制圧すればいいだけのことよ! そうすれば、さっきの奴もなくなるしね!」 ここに来て突撃バカぶりを発揮するハルヒと来たか。しかし、間違ってはいないな。 どのみち発射地点を制圧するなり、さっきの攻撃手段をつぶすなりしないかぎり、一方的に攻撃を受け続けるだけになる。 「罠の可能性もありますね」 唐突にそう指摘したのは古泉だ。 「鶴屋さん部隊への攻撃は非常に小規模のものでした。そして、あっさりと撤退しています。 その次に北高へのロケット弾攻撃ですが、これも十発程度で終わっています。 本気で攻撃するのならば、もっと大量に撃ち込んでくるでしょう。あきらかに北山公園に我々を呼び込もうとしています」 「最初の襲撃に関してはそうかもしれないが、ロケット弾攻撃に関しては弾が尽きただけかもしれないぞ」 俺がそう反論する。ハルヒもうーんと同意のそぶりを見せた。ただ、古泉は、 「確かにその可能性はゼロではありません。しかし、これだけ有効な攻撃手段であるものを 序盤で使い切ってしまうのは、明らかに不自然と言えます。切り札を使い切ってしまったのですから。 無論、あれ以上の効果的な攻撃手段を保有していて、今回のロケット弾攻撃は挨拶程度のものという可能性もありますが」 どっちなんだ。はっきりと答えろよな。 「僕が言いたいのは、誘い込むための罠という可能性があるということです。北山公園に攻め込むことを決定する前に、 考慮していても損をすることはありません」 確かに古泉の指摘する可能性は十分にある。しかし、ここにいてもどうにもならんのも確かだ。 そうなると、ハルヒが導き出す結論は一つしかない。 「確かに古泉くんのいうことには一理あるわ。でも、このままだと攻撃を受け続けるだけだし、 そんなのおもしろくないじゃない。相手がびびっているのか知らないけど、遠く離れたところからこそこそ攻撃してくるなら、 こっちからぶっつぶしに行くだけよ!」 ほらな。ハルヒの性格を考えれば、じっとしているわけがない。古泉もひょうひょうといつものスマイルで、 「涼宮さんがそう決定なさるのなら、僕もそれに従いますよ。上官の命令は絶対ですから」 そうイエスマンへと転じた。ただ、こいつの指摘も無駄ではなかったらしい。 「でも、少しでも罠っぽい状況だとわかったら、即座に撤退するわ。その後は別の方法を考えましょ」 ◇◇◇◇ 次の議題は北山公園攻略作戦だ。この公園は南北に2キロ程度広がる森林のようなものになっていて、 南北の中間地点のやや南側には緑化植物園があり、公園入口っぽくなっている。 「やはり、突入ポイントはこの植物園でしょう。部隊の輸送には北高敷地内にあるトラックを使うことになるので、 車両で入れる場所が理想的です。当然、敵も同じことを考えているでしょうから、植物園奪取には激戦が予想されますね」 淡々と古泉のプランを聞いているSOS団-朝比奈さん+鶴屋さん。わざわざ敵が陣取っているような場所に 正面からつっこむのか。ハルヒが好みそうな作戦だな。 「悪くないわね。植物園を取ってしまえばこっちのもんだわ! あとはロケット弾の発射拠点を制圧して完了ってわけね! さっすが古泉くん! 副団長なだけあるわ!」 ハルヒの賞賛を一心に浴びて、古泉は光栄ですと答える。やれやれ、本当に突撃になりそうだ。 「で、誰の小隊が北山公園での掃討作戦に従事するんだ?」 「あんたと鶴屋さんよ」 とんでもないことをいけしゃあしゃあと言いやがる。古泉の野郎はどうするんだよ? 「古泉くんはいざって時のために前線基地で後方待機してもらうわ。あんたたちがやばくなったら、 すぐに駆けつけられるようにね。あと、伏兵とかが学校に奇襲を仕掛けてきた場合はすぐに戻ってもらうから」 どうしてそうなったのか聞かせてもらおうか。 「わかんないの? まず、あんたには鶴屋さんたちを襲った連中を追撃するために北山公園北部に向かってもらうわよ。 初めて遭遇した鶴屋さんがあっさりと追い払ったんだから、あんたでも大丈夫でしょ。鶴屋さんは一度だけとはいえ、 敵と戦っているわ。敵について知っているのと知らないんじゃ大違いよ。だから、南部のロケット弾発射地点に 向かってもらうわ。おそらくそこの守りが一番堅いと思うし。学校からトラックで向かうから、 途中で古泉くんと入れ替わってもらうわね。いい、鶴屋さん?」 『りょーかいりょーかいっ! 任せちゃってほしいなっ!』 「古泉くんはあんたよりも運動神経も思考能力も遙かに上よ。状況に応じて臨機応変に対応する必要のある場所にいるのが 最適だわ。あと、有希は学校に残って砲撃での支援をお願い。こっちから指示した地点に遠慮なく撃ち込んで。 古泉くん、有希、いいわね?」 「もちろん異存はありません」 「問題ない」 あっさりと同意する二人だが、ん、ちょっとまて。 「それなら植物園には誰が陣取るんだよ。まさか、空っぽにするつもりじゃないだろうな?」 「そこにはあたし自らが行くわ。あとで、適当な人員を集めるから」 ハルヒ総大将自らがお出ましか。だが、指揮官がそんな銃弾が飛び交う場所にいて良いわけがない。 「あのなハルヒ。以前にも言ったが、総大将がずけずけと前線に出るモンじゃないぞ。 おまえがやられちまったら、生徒たちを誰が――」 「異論は許さないわよ」 俺の声を遮ったハルヒの言葉は、今まで聞いたことのないような鋭さだった。ただ、怒りやいらだちからくるものではない。 強烈な決意がにじみ出るようなものだ。わかったよ。おまえがそういいなら好きにしろ。 しかし、俺の中にあるこのもやもや感は何だ? ◇◇◇◇ さて、作戦も決まったことなのでいよいよ決行だ。ハルヒ小隊の編成が終わり次第、出撃と言うことになる。 俺たちは校門に並べられた輸送トラックの前でそれを待っている。 「正直に言ってしまえば、少々不安ですね」 突然、こんなことを言い出したのは古泉だ。おいおい、出撃直前に不安になるようなことを言い出すなよ。 「涼宮さんがあなたが敵と確実に一戦交えるような場所に送り込むとは思っていませんでした。 てっきり学校に残して後方支援をさせたり、最悪でも僕のポジションが与えられるものだと。 涼宮さんと一緒に植物園にいるならまだ納得ができますが、あなた一人をそんな場所に行かせるとはね」 「はっきりと言え。時間もないことだしな」 「涼宮さんが現状をきちんと認識しているかどうか、ひょっとしたらあのコンピュータ研とのゲーム勝負程度として 考えているのではないか、そう思っているんですよ。あなたを危険な場所に向かうように指示したと言うことは、 あなたが死んでしまうかもしれないということを考えていない証拠です。信頼といってしまえば、それまででしょうけど、 今はそんな状況ではありません。鶴屋さんが敵を撃ったときに、まるでゲームキャラクターが消えるかのようになったと 言っていましたね。あれで僕たちもそうなのかもしれないと思いましたが、先ほどのロケット弾攻撃で 負傷した生徒を見るとどうも違うようです。確実に僕たちに『死』が訪れるかもしれません」 「確かにな。そんなに甘くないことは、俺も理解しているつもりだ」 ハルヒが今の状況をどう考えているのか。それはハルヒ自身にしかわからないことだろう。 だが、一つだけ言えることはある。 「俺がいえるのは、どんな状況であろうともハルヒは、誰かが死ぬことなんて望んでいない。 SOS団のメンバーならなおさらさ。万一、誰かが傷けられたら、ハルヒはやった奴をたこ殴りにするだろうよ」 「それはわかります。しかし――」 俺は古泉の反論を遮って、 「さっきのおまえの言い方だと、まるでハルヒは鶴屋さんならどうなっても良いってことになっちまう。 だが、断言できるがハルヒはそんなことなんて思ってもいないだろうよ。古泉も別にかばいたくて、 一歩下がった場所に配置したんじゃない。ただそれが適切だと考えたのさ」 ――俺はいったん話を区切って、話すことを整理する―― 「ハルヒはハルヒなりに考えたんだろ。どうすれば、このくそったれな状況を乗り切られるかを。 で、結論は戦い抜いて乗り切る。そのためには、一番信頼のできるSOS団の人間をフル活用する。 どうでもいいとか、たいしたことじゃないとなんて理由で俺たちを前線に持って行こうとしているんじゃない。 それが乗り切るためにはもっとも適切だと判断したんだろうな」 ガラにもなく古泉調の演説をしちまったが、古泉は痛く感銘したのかぱちぱちと手を叩きながら、 「すばらしいです。そこまで涼宮さんの思考をトレースできるなんて。どうです? これからは 機関への報告書作成をしてみませんか? 僕よりも適切なものが書けると思いますよ」 「全身全霊を持って断る」 そんな疲れるものなんてこっちから願い下げだ。 「おっまたせ~!」 と、ここで30人ばかしを引き連れたハルヒ総大将が登場――と思ったら、いつもつけている腕章が『中佐』になっている。 いきなり降格かよ。 「バカね! 前線に出るんだからそれなりに適切な階級があるってモンでしょ。大将とかってなんだかデスクの上に ふんぞり返って命令しているようなイメージがあるし。中佐なら、映画とかなんかでも前線でドンパチやっているじゃん」 ……まあ、それは別にかまわんけどな。 ハルヒが編成した連中はみんなクラスもバラバラ性別もバラバラだった。 大方、その辺りを歩いていた奴を捕まえてきたんだろう。にしては、結構時間を食っていたみたいだが。 「あー、ラジカセと音楽を探していたのよ。景気づけにワルキューレの騎行でも流しながらつっこめば、 敵も混乱するんじゃないかって。でも、ラジカセはあったんだけど、肝心の音楽の方がね」 ヘリで突入する訳じゃないんだから、別に必要ないだろ。心理作戦が通じるような相手でもなさそうだし。 ふと、気がつくと朝比奈さんと長門も校門前にやってきていた。おお、朝比奈さんに見送っていただけるとは光栄ですよ。 「古泉くん……どうか気をつけてね」 朝比奈さんのありがたいお言葉に古泉はいつものスマイルだけ返していた。まったく価値のわからない奴である。 「キョンくんも気をつけてね。無事に帰ってきてくださいね」 「ええ、がんばってきます」 と、そこに長門が割り込むように、俺をじっと見つめ始める。表情は相変わらずだったが、漂うオーラみたいなものは はっきりと感じ取れた。 「心配すんな、長門。なるようになるさ。支援よろしくな」 長門は俺の言葉にこくりとうなずく。やっぱり、親玉とのつながりをたたれて不安になっているのだろうか。 ややいつもと違う雰囲気を醸し出している。 「こらキョン!」 せっかくこれから戦地に向かう兵士が見送りをさせられる気分を味わっていたのに、それをぶっ壊したのはハルヒだ。 「なにやってんのよ! まさか、有希やみくるちゃんに『帰ってきたら~』とか言ったんじゃないでしょうね! それはばりばり死亡フラグなのよ! いい? あんたはあたしの下でビシバシ働いてもらうんだからね! 勝手に死んだりしたら絶対に許さないんだから!」 言っていることがよくわからん。もっとわかりやすく説明してくれ。 「要約すると、とっととトラックに乗りなさい! 出撃するわよ!」 やれやれ、なんてわがままな中佐殿だ。 まあ、出征前モードはここで終了だ。俺は大型トラックに自分の小隊を乗せるように指示し、 俺もそれに飛び乗る。いよいよか。しかし、ちっとも緊張しない上に、慣れた感覚に頭が満たされるのは、 相当俺の頭の中をいじくられていることの証拠だろう。当然、戦地に向かうってのに、 まるで何も反応を示さない俺の小隊もだ。おびえた表情を浮かべる谷口をのぞいてだけどな。 「よーし、出撃! 一気に北山公園に突入するわよ!」 ハルヒの威勢の良い声とともに、北山公園に向けトラックが発進した―― ◇◇◇◇ この時、俺はハルヒは状況を理解していて、これからどんなことが起きるのかもわかっていると思っていた。 だが、それは間違い――いや、正確にはハルヒは理解していたのかもしれない。間違っていたのは、 俺自身の認識だったんだ。ハルヒがどう思っているか勘ぐる資格なんてないほどにな。 ~~その2へ~~